ムラサキ・ツムグ

ムラサキ・ツムグ

しがない官能小説屋です。色々と本を読みます。


本が好きです

さんの書評2023/12/05

タイトルで忌避するのはもったいない

タイトルで心を掴まれて面白半分で手に取った一冊だったが、実際に面白かった。射精道というのは新渡戸稲造の著作「武士道」を下敷きにした表現で、簡単に言うと武士の刀を男性のペニスと読み替えれば、その取扱に正しい知識と実践の積み重ねが不可欠であることは疑いようもないという話だった。強烈なタイトルに比してありきたりとも言える主張だが、逆に言えば堅実で、本著の内容がいかにまともであるかを物語っているように思えた。 著者本人が医師として実際の患者のさまざまな性の悩みに直面してきただけあって、どの章にも説得力があった。かと思えば、心当たりのある人をぎょっとさせること受け合いのパンチの効いた皮肉も挟まれており、読みながら笑いが込み上げてくる場面もあった。 また、完全に男性の立場から書かれているにも関わらず、女性に対してかなり親身な内容であると感じた。「射精道」と言いつつ、ひょっとすると女性の方が本著の内容に共感できるのではないかと思ったほどだ。しかし著者が男性の味方でないと言うことは決してない。性別を問わず楽しめる内容と言えるだろう。 いずれにせよ、タイトルで忌避するのは勿体無い一冊だと感じた。興味があれば、お手にとって頂いて損はないと思う。

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さんのコメント2025/07/28

2025年第22回本屋大賞をきっかけに興味を持ち、近くの図書館で予約してから2ヶ月。本日、ようやく読むことができた。ひとりで泣いたり笑ったりしながら、1時間半ほどかけて一気に読了。映画館で映画を観るような読書体験だった。 主人公である薫子のことを、最初はとても面倒臭くて嫌な女だと思った。しかし、彼女の抱える苦しみや心の痛みが明らかになるにつれ、その人となりに少しずつ理解が及ぶようになっていった。それと同時に、亡弟の元恋人であるせつなとの一風変わった交流を通じて、薫子が本来の自分を取り戻していくのがわかり、それが我がことのように喜ばしく感じられた。このあたりの「語り」の巧みさが、本作が本屋大賞を受賞した理由のひとつではないだろうか。 これ以上はネタバレになるので語らずにおく。 とにかく、読み終えたあとに心があたたかくなる作品だった。とても良かった。

さんのコメント2023/11/09

2000年にノーベル化学賞を受賞した白川博士のエッセイ集。全体を通じて興味深く読んだが、僕個人としては母語でサイエンスを学ぶというのがいかに稀有で素晴らしいことかについての記述に感銘を受けた。 「もっと学問をしたい」と思わせてくれる、そんな一冊だった。