mizchiさんのコメント 2020/06/13
作者がノーベル賞をとってから、ずっと読んでみたいと思っていた。最寄りの図書館には置いていなかったが、旅先で思いがけず出会うことができた。
素晴らしい一冊だった。主人公は気品と分別を備えた壮年男性で、人生の盛りを過ぎ、これからの生き方を模索している。勤勉で有能な人物だが、自分自身の気持ちには極めて鈍感である。その不器用さゆえに、かつて相思相愛だった女性に去られている。この女性と、仕事終わりにココアを飲みながら、毎晩のように業務の打ち合わせをしたことが語られている。それは2人にとって大切な憩いのひとときであったはずだが、主人公は頑なにそのことを認めようとしない。このあたりの描写が実に見事だ。
そんな彼が、おそらく人生初と思われる自動車旅行をして、その女性に会いに行く。山あり谷ありの一人旅が、主人公の人生と重なる。読後には、深い余韻が残る。休日の1時間半を割くに値する一冊。最高だった。