内田裕介さんの書評 2023/06/01 5いいね!
ちまたにあふれる「健康情報」に安易に飛びついてはいけないよ、情報の信ぴょう性についてちゃんと判断しましょうね、という趣旨の本です。 これを「ヘルスリテラシー」というそうで、著者の造語かもしれませんが、なるほど、ヘルスリテラシーとはわかりやすい用語です。 👉魚は体にいい 👉グルコサミンは膝痛に効く 👉腸内細菌が認知症予防になる などなど、よくテレビや雑誌で取り上げられる話題について、その根拠となる論文の読み方を解説しつつ、実際のところはどうなのか、という評価を加えていくスタイルで読みやすいのがいい。 論文といっても、そこに書いてあることがすべてにあてはまるとは限らない。むしろ、そうでないことの方が多い。動物実験で証明されたからといってそれが人間にもあてはまるとは限らないし、ごくごく限られた条件下でだけあてはまるということもある。さらに多くの研究にはスポンサーというのがいて、スポンサーの喜ぶような結果がでなければ、そもそも研究結果自体が発表されないことだってある。 科学者、研究者にもいろんな「大人の事情」があって、その中で研究を進めているわけで、そこを踏まえたうえで健康情報を読み解きましょう、ということです。 その意味では本書に書かれていることも、そのまんま信じてはいけません。 たとえば、「雨の日は節々が痛むのはなぜか?」というトピックでは、想起バイアス(=過去の出来事を思い出すときに過剰反応しやすい)の可能性を指摘していて、150万人の外来受診データを雨の日とそうでない日にわけて関節痛の受診数を比較したところ、ほとんど差がなかった、という研究を紹介しています。 しかし、気圧チャンバーを用いた実験では、わずか数hPaの減圧でも認識し、頭痛やめまいを訴える人がいることもわかっていて、気圧が痛みに関係することがある(そういう人が現にいる)、というのも事実だと思います。 科学といえども、ある時点、ある条件でのピンポイントの事実しか捕まえられません。 時空を超えて普遍的な「真実」を捕まえるのはたいへんです。 一方、自分の身体は唯一無二。世界中で自分にしか起こらないことでも、もし起きたとしたなら、自分にとっては「真実」なわけで、そこが物理学の実験などとちがって、健康情報の難しいところです。 というわけで、この本を読んで、そのまま信じるようでは「ヘルスリテラシー」が低い、ということになってしまいます。まずは疑ってみるのが、ヘルスリテラシーを鍛えることになると理解しました。
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