コモリーマン@Yoga好き❤️さんの書評 2025/11/12
YouTubeで「資生堂ショック」について取り上げられていたのをきっかけに興味を持ち、資生堂に関する書籍を探したところ、本書『資生堂インパクト』に出会った。 本書で紹介されている「資生堂ショック」とは、育児短時間勤務者への対応として導入された「カンガルースタッフ制度」をめぐり、短時間勤務利用者と非利用者の間で生じた業務負担の不公平を是正するために行われた制度改革を指す。短時間勤務者が早番勤務に偏り、遅番や土日勤務が非利用者に集中する状況を解消するため、育児短時間勤務者にも一部遅番・土日勤務を割り当てる方針へと転換した。 この改革は単なるトップダウンの決定ではなく、実施前から管理職・従業員への意識改革や管理職研修、現場との対話促進など、段階的な準備が行われていたことが紹介されていた。また、女性の働き方改革を企業内の課題としてだけでなく、社会全体の男性の家事・育児参加の促進や長時間労働の是正といった構造的課題として捉える必要があることも指摘されていた。 さらに、著者は「女性活躍推進」に関して、①子育て支援はゴールではない、②女性だけの努力で解決できる問題ではない、③成果が出るには時間がかかる――という3点を強調しており、印象に残った。 全体として、「資生堂ショック」の経緯から、女性管理職比率を高めるための施策へと展開する構成はわかりやすかったが、途中で紹介される資生堂の経営状況の記述はやや流れを中断しているようにも感じた。構成上の工夫があれば、より読みやすくなったと思う。 管理職向け研修では、従業員への説明時に避けるべき言葉として「旦那さんにも家事をやってもらえばいいじゃないか」というフレーズが挙げられており、代わりに「家族としっかり話し合ってみたらどうか」と促す言い方を推奨していた点が印象的だった。この姿勢には、相手に考えさせて導くというコーチング的手法が反映されていると感じた。 また、「マミーゴール」や「1人別育成プラン(管理職一歩手前の女性社員について、上司と人事が本人に知らせず育成方針を検討・実施する制度)」など、初めて知る施策も多く、学びが多かった。さらに、資生堂が管理職(ゼネラリスト)と専門職(スペシャリスト)を明確に分け、本人の希望で選択できる制度を導入している点にも合理性を感じた。 最後に、本書を通して、長時間労働の是正や男性の家事・育児参画など、依然として残る社会課題を痛感した。これらは一企業だけでは解決できず、企業・団体、さらには政府全体で取り組むべき問題であると強く感じた。
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