さんの書評2025/11/10

ジョブ型VSメンバーシップ型 日本の雇用を展望する(HRM研究会 編)を読んで

本書は、HRM研究会が主催したシンポジウムの内容をまとめたもので、各登壇者による発表と、その後の論点整理が収録されている。ジョブ型とメンバーシップ型という日本の雇用構造を、法制度・人事制度・経営戦略など多様な視点から論じており、非常に刺激的な内容だった。 特に印象に残ったのは、「ロール型雇用」という新しい概念である。これは、個人が担っている役割(ロール)を基準に処遇を決める仕組みで、ジョブ型ともメンバーシップ型とも異なる第三の方式として提示されていた。 ただし、このロール型は「個人が実際に担っている仕事」を基礎に評価を行うため、本人が最も専門性を発揮できる領域を自ら選びにくいのではないかという疑問を持った。その意味では、メンバーシップ型と同様にジョブローテーション的な運用が生じる可能性もあると感じた。 また、本書ではロール型雇用がジョブ型の課題を補完し、役割を明確にすることで外部労働市場からの人材獲得を容易にすると紹介されていた。この点は一定の説得力があり、採用戦略の観点からも興味深い。ただ、求められるロールが企業側の恣意的な判断で設定されるメンバーシップ型の弱点がどのように取り扱われるか不明確であることも考慮すると、定着率への影響などは今後の検討課題だと思う。 さらに、まとめの章で登壇した公務員が、「ジョブ型の導入は、ラインマネージャーによる人事部からの人事権の簒奪だ」と指摘していた点が印象的だった。著者もこの発言に強く共感していたが、私はむしろ逆に、人事権を一手に握っている人事部こそが権力を掌握している構図に問題があるのではないかと感じた。 ジョブ型への移行は、そうした人事部主導の支配から解放され、専門部門が主体的に人材を選べる「大政奉還」とも言えるのではないかと思う。人事部が権限を持ちすぎることで、専門性の高い部門に不適切な人材を配属してしまうリスクは確かに存在しており、この点でジョブ型は改善の可能性を持つと考える。 最後に、本書全体を通じて労働者視点の議論が主に賃金やワークライフバランスにとどまっており、「やりがい」や「キャリア形成」といった内的動機づけの視点があまり扱われていなかった点は惜しく感じた。むしろジョブ型の真価は、こうしたキャリアの自律性や専門性の発揮にこそあるのではないかと思う。

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