西暦2000年代、日本の新幹線が台湾を走ることに決まった。某大手企業に勤める主人公の多田春香は、新幹線を無事開通させるという使命を帯び、上司および同僚らとともに台湾へ渡る。 事業は初っ端から難航する。スケジュール通りに行くのが当然と考える日本チームと、スケジュール通りに行かないのが当然と考える台湾チーム。春香の上司はストレスを抱え、既婚者でありながら、歓楽街の若いホステスと飲み歩くようになる。春香は生来のたくましい気質により激務に耐えていたが、日本に残してきた恋人が鬱病になり、そのことで悩まされることになる。 大筋はこんなところだが、当作にはほかにもさまざまな人物が登場する。連れ合いを亡くした在日台湾人の老翁や、9年前に1日だけデートした日本人女性を未だ忘れられずにいる台湾人男性、進学先で日本人に妊娠させられた幼なじみを思い続ける台湾人青年など。 彼らの存在は、話の本筋を語る上で必ずしも重要ではない。しかし、この長大な物語を魅力的な人間ドラマたらしめているのは、こうした人々の織りなすサイドストーリーに他ならない。 外国に新幹線を開通させた人々の苦労を軸に、祖国を捨てざるを得なかった人々の悲しみ、ほろ苦い恋愛、家族愛などが複雑に絡みあう。そして、新幹線開通とともに、彼らの人生に新しい路が敷かれる。感動作と呼ばれるに相応しい一冊だった。またいつか借りて読みたい。
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