目次
序 章 結核とその文化史的意義について
第I部 結核をめぐる社会と個人
第1章 殖産興業と女工哀史
1 伝染病と社会状況
2 女工と肺病
3 肺病と社会的対策のはじまり
第2章 鷗外・コッホ・肺病
1 コッホと結核菌の発見
2 医学者鷗外とコッホ
3 「結核治療薬」ツベルクリン
4 鷗外の肺病恐怖と師コッホの来日
5 肺病と鷗外文学
第II部 結核のロマン化と非ロマン化
第3章 肺病のロマン化
――『不如歸』とその系譜
1 ロマン化のはじめ
2 『不如歸』の誕生
3 『不如歸』の背景と影響
4 ロマン化の過程(その1)
5 ロマン化の過程(その2)
6 ロマン化の過程(その3)
第4章 子規と肺病患者たち
1 喀血と、漱石との出会い
2 病状の悪化
3 肺病と死の認識
4 『墨汁一滴』『仰臥漫録』と肺病患者の群像
5 『病牀六尺』と肺病患者の心理
第III部 結核と医学
第5章 肺病・サナトリウム・転地療養
1 病人の行くべき所
2 転地療養とサナトリウム
3 サナトリウム発祥の地――鎌倉と須磨
4 南湖院と獨歩
5 平地および高原療養所
6 サナトリウムの限界と終焉
第6章 医学書・療養書と結核予防運動
1 西洋医学の診断・治療
2 レントゲン線と通俗療法
3 結核予防と結核撲滅運動
4 農村結核から全国的蔓延へ
5 免疫と死亡率の減少と
終 章 遠のいた死と残されたイメージ
註
あとがき
図表一覧
参考文献
事項索引
人名索引
英文要旨
前書きなど
結核の歴史は、人類の歴史と共に古い。
その人類の歴史は、ある意味でさまざまな疾病・疫病との闘いの歴史であったが、それはほとんど常に敗退の歴史でもあった。結核もまたその例から漏れない。
長い間、数多の医学者や科学者、さらには宗教家、思想家さえもが結核の原因を探求し、その治療法を考究してきたが、遺伝説(同じ家系内に遺伝的形質として伝わるという考え)と伝染説(何らかの形で、たとえば瘴気、つまり悪い空気によって人から人へと伝染するという考え)の両論間の争いがつづき、結局、効能の少ない同じような種類のいくつかの療法の間で堂々巡りをしていただけだった。そこから伝染説の新しい考え方が登場し、不可視の微生物あるいは極小動物が結核の原因かもしれないとされて、その究明への正しい道を歩み始めたのは、今からほんの三百年ほど前のことであり、結核の原因である結核菌が発見されたのは、つい百年ほど前の一八八二年のことであった。しかも、結核菌の発見はすぐさま新しい治療法が開発される可能性を感じさせたが、真に効果的な結核の治療法が発見されるまでには、なおそれから七十年近い年月を経なければならなかったのである。……
[「序章」冒頭より]