せのおさんの書評 2022/11/12 1いいね!
# 書評☆4: 24歳のフツーの男子がブラック企業に勝った黒い方法 | いい加減な著者のやや中身の薄い裁判レポート
## 概要
- 書名: 24歳のフツーの男子がブラック企業に勝った黒い方法
- 副題:
- 著者: 工藤, ダイキ
- ISBN: 9784769611523
- 出版: 2016-07-10
- 読了: 2022-11-08 Tue
- 評価: ☆4
- URL: https://book.senooken.jp/post/2022/11/08/
## 評価
本人訴訟をしていて和解について調べていたらGoogle Booksで本書がヒットして、内容が気になったので借りて読んだ。
書籍は以下の3部構成だった。
1. 刑事裁判体験記
2. ブラック会社体験記
3. 民事裁判体験記
1-2はエッセイに近い内容であまり役に立たなくて、70ページほどの3が本書で重要な部分だった。
具体的な戦略が書かれており、参考になった。ただ、やることは結局、証拠集めで、ICレコーダーでの録音くらい。
実体験者のレポートは貴重だが、普通に考えてわかる範囲の内容で、本書を読まなくても問題はなかったように思った。
また、刑事事件を起こすなど、そもそも著者が頭が悪いというか、問題があるような人物に思った。本文内にも中途半端にふざけた内容が入っていて、著者のいい加減さがにじみ出ていた。
普通に、要点だけをまとめれば情報商材としてもできたように思った。中途半端にエッセイ的な内容が入って、中身の薄い本になったように感じた。
## 参考
> ### p.10: 刑事裁判の経緯
2015-05-17 22:00頃に著者が公務執行妨害&生涯で現行犯逮捕された経緯が説明されており、以下の通りだった。
1. 水道橋の居酒屋で飲酒 (大声?)
2. 隣席の客に絡まれ口論発展
3. 相手が著者の胸ぐらをつかみだしたため、店員が警察呼び出し
4. 著者を保護・事情聴取でパトカーに乗せようとしたら暴れて警官に怪我で現行犯逮捕。
> ### p. 47: 民事裁判の経緯
本書の核となる民事裁判の経緯が以下の通り説明されていた。
1. 日本大学経済学部卒業後、美容の商社に新卒入社
2. 毎月100時間以上のサービス残業、3年以内離職率70 %、暴力暴言ありのブラック企業
3. 退職勧奨が入社1年目の12月頃にあり、その後嫌がらせを受け解雇
4. 不服なため裁判
> ### p. 117: 高額な慰謝料請求は不能
民事裁判で著者は700万円を獲得できたが、高額な慰謝料請求は無謀と以下のように説明していた。
- 高額な慰謝料請求は不能。せいぜい10-100万円。
- 700万円は解雇無効+残業代+慰謝料など。
- パワハラ自殺に追い込まれてようやく数百-数千万円。
- 慰謝料請求をメインにするのは無謀。
- 過去の判例で相場が決まっている。
> ### p. 124: 解雇戦略
解雇時の流れと労働者・会社の戦略・思惑が説明されていた。
- 会社の社労士などは会社とグルなのであてにしないこと。
- 会社都合解雇の法律上難しいので、自主退職の退職勧奨に力を入れて「始末書→減給→配置転換→自宅待機→解雇」のようなステップで解雇になる。この手順を踏むことで訴訟時に解雇有効の判断材料になる。
- 労働者としてはこの方針に納得していないことを示す証拠・録音が有効になる。
- 会社が残業代請求受けた場合の一番のリスクは、「他の従業員に知れること」と言われている。
> ### p. 132: 労働基準監督署の範囲
解雇から労働基準監督署への相談の話が説明されていた。
- 4/9に解雇通知書とわずかな残業代が支払われれ、4/11で解雇となった。その後、労働基準監督署 (労基) に相談した。相談は無料で何回でもできる。
- 労基から会社との相談の場を設ける交渉はなされるが、そこまで。解雇の有効・無効は裁判官のみが決めることができ、労基の範囲外。
> ### p. 138: 訴訟金額のカラクリ
著者が今回行った解雇無効・残業代・慰謝料請求裁判の基本戦術が説明されていた。
- 解雇無効が認められると、職場復帰権利、経歴改ざん、解雇されてからの給料支給 (バックペイ)。このバックペイが大きい。20万円x22か月=440万円。だから会社にとっては解雇のリスクは高い。
- 会社が職場復帰を拒否したければ、転職支援金として3か月分くらいの給料をバックペイとして追加して和解交渉する。
- 裁判中にアルバイトの収入があるとバックペイから控除される。ただし、最低でも給料の6割は保証。
- また、解雇裁判は労働者側が基本有利。
- 裁判は証拠が全て (診断書、ICレコーダーなど)。証言は効力が低い。
> ### p. 146: 解雇無効裁判の証拠例
裁判は証拠が全てであり、多ければ多いほどよく、著者が収集した証拠が紹介されていた。
- 就業規則/給与明細/タイムカードコピー/日報/売上票
- フェイスブック (上司) のスクリーンショット
- 営業所のパソコンのshutdown履歴
- 上司とのメール/会社のホームページ/就活サイトの採用情報
- ICレコーダーの録音会話
- 会社の資料 (議事録・休暇案内・忘年会のお知らせなど)
- 診断書/自分の日記/会社の登記簿/部長宅の登記簿 (土地・建物)
- 労基との相談やり取り
証拠がたくさんあると、複数の証拠が組み合わさってより強力な証拠になる。
たとえば、残業代請求は「タイムカード/パソコンのshutdown履歴/上司への帰社メール/給与明細/雇用契約書/就業規則」があれば十分とのこと。
残業奨励の録音もあるとなおよい。
> ### p. 150: 対・退職勧奨
退職勧奨を受けた際のコツがありました。
- 就業継続の意思を機械的に示す。
- ICレコーダーで録音。
- 感情的になって怒るのはNG。
- 100対0で相手が悪いと裁判官に思わせる証拠が必要。
- 不利になるので自主退職に関する言動はNG。退職届もだめ。
- 有給申請拒否や暴力を認めさせるような発言をするように仕向けるのもあり。
> ### p. 154: 弁護士選び
弁護士の選び方のコツがあった。
- 著者は4件で7人の弁護士と会った。
- 着手金32万円、成功報酬175万円、実費8万円だった
- 直接会って、性格・相性・戦略など弁護士の色をみる。
- 戦略は短期で少額とるか、長期で高額を取るかなど。
- 相談料は30分5000円。
- 一般的に着手金が10-30万円、成功報酬が獲得金額の10-30 %など。
> ### p. 162: ICレコーダー活用術
ICレコーダーの著者の活用術がありました。
- ICレコーダーはあまりケチらずに良い製品を推奨。
- 著者は1万円だがもっと良いものを買えばよかったと後悔。
- 雑音だらけだと意味がない。音質重視。
- 購入後は相手に気づかれないことを考える。ばれると警戒される。
- 著者はスーツの内ポケットに忍ばせた。
- 膨らみを聞かれたとき用に音楽機器も忍ばせた。
- 録音データは直接の証拠にはならず、翻訳として書き起こした書類が証拠になる。
- この翻訳作業に相当時間がかかる。録音データは整理したほうがいい。
- 弁護士に依頼もできるが、コスパが悪いんので自分でやったほうがいい。
- 裁判では被告から録音データの提出を求められることがある。著者は数が多いので求められなかった。
> ### p. 173: 解雇無効裁判のポイント
- 解雇無効では建前としては復職を希望している前提になる。
- 再就職はNG、契約社員もNG。ただしアルバイトはOK。
- 著者は本気で復職希望だった。
> ### p. 180: 裁判期間
著者の裁判日程が記されていた。だいたい1.5か月に1回裁判期日が会って、結局1年半かかった模様。
- 2014-04-11に解雇
- 2014-04-20に弁護士に着手金支払い
- 2014-05に内容証明郵便送付。
- 2014-07に訴状を裁判所に提出
- 2014-09-11に第1回期日。以後1.5か月に1回ペース。
- 2014-10-24に第2回
- 2015-06の第7回で書面終了
- 2015-09に本人尋問。その後和解交渉4回。3週間に1回ペース。
- 2015-12-16に第4回和解。これで決着。
> ### p. 195: 著者の裁判の目的
最後の和解の交渉で800万円の和解金のところを700万円に値下げして口外禁止条項の条件を外した。
この理由は以下の通りだった。
- 理由は、今回の裁判のネタを使って、当初から出版を考えていたから。
- 勤務中に裁判知識を集めていた時に、裁判経験者の本がほとんど存在しないことを嘆いていた。
- 獲得金額を問題視していなかったのは、出版での売上に賭けていたから。
なお、結局出版しても印税額は7万円で夢のまま終わった模様。
## 結論
ブラック企業相手への解雇無効を求めた裁判レポートだった。
一番知りたかった和解や裁判の理由は結局出版目的ということだった。
刑事事件は著者の完全な自業自得で、ふざけた内容も多く、訴訟戦術も普通の内容で、全体的な内容は内容の薄い普通の内容だった。
ただ、裁判レポートは、口外禁止条項などでなかなか知る機会がない。そういう意味で貴重な本だった。
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