目次
はじめに
第1章 アウンサンスーチー政権の挑戦――国民の期待と改革への課題[五十嵐誠]
はじめに
1 テインセイン前大統領による改革の進展と限界
2 憲法改正とNLD
3 改憲をめぐる攻防
4 スーチー政権の改憲戦略
5 スーチー氏と国内和平
6 反イスラム感情の高まりとスーチー氏
7 国家顧問創設と政治犯の釈放
8 経済発展をめざして
おわりに
コラム1 汚職や賄賂はなくなるか?
第2章 ミャンマー民主化運動――物語の序幕[伊野憲治]
はじめに
1 8888民主化運動へむけて
2 学生決起8888
3 クーデター以降
おわりに
コラム2 88年世代の別のニーズ
第3章 軍政内部からみた民政移管の深層[宇崎真]
1 私にとってのプラスワン
2 ビルマ辺境の麻薬地帯へ
3 ミャンマー大財閥オーナーは元麻薬王
4 軍政内部の抗争とタンシュエ独裁への面従腹背
5 民主改革の裏に国軍最大のピンチ
コラム3 日本の近代サッカーの父はビルマ青年だった
第4章 体制転換とミャンマー農村の社会経済変容[髙橋昭雄]
はじめに
1 国民経済の中で農業を診てみる
2 農業だけでは農村は語れない
3 内部に入らなければ農村はわからない
むすび
コラム4 チンの焼畑から土地所有の歴史を再考する
第5章 日本とビルマの関係を考える――占領と抗日、戦後のコメ輸出、賠償とODA、そして未来[根本敬]
1 アジア・太平洋戦争期の関わり
2 戦後の関係
3 軍事政権期の関係
4 2011年3月以降の「変化」と日本の対応
おわりに
コラム5 抗日蜂起を事前に見抜けなかった日本軍
第6章 在日ミャンマー人社会はいま[シュエバ/田辺寿夫]
1 ピードーピャン(帰りなん、いざ)
2 日本での民主化活動
3 難民認定をめぐって
4 社会福祉活動に向かう
5 在日ビルマ人はいま
コラム6 がんばろうぜ! シュエバ
コラム7 ミンコーナインのこと
第7章 「アジア最後のフロンティア」論を超えて[永井浩]
1 国際社会のなかのビルマ民主化問題
2 政府、経済界、市民の対応
3 アウンサンスーチーの政治理念とエンゲージド・ブッディズム
4 新たな発展モデルは可能か
コラム8 『ビルマの竪琴』
ミャンマー民主化への歩み
おわりに
前書きなど
はじめに
アウンサンスーチーに象徴される国、ビルマ(ミャンマー)。この国はいま、新たな国づくりに向けて、どのような歩みを続けているのか。本書はその答えを、研究者とジャーナリストがそれぞれの強みを生かしながら多面的に示したものである。
(…中略…)
第1章は、現役の朝日新聞ヤンゴン支局長の五十嵐誠によるアウンサンスーチー政権の紹介である。新政権の「生い立ち」を詳細に追ったうえで、政権が重点的に取り組む課題について軍との関係に触れながら描き、特に改憲をめぐるNLD(国民民主連盟)と国軍との攻防や、少数民族問題をめぐる駆け引きについて具体的に論じている。ビルマ語を自由に操れる稀有な特派員としての有利な立場を生かした直球勝負の分析である。
第2章は、ビルマ民主化運動のおおもと(序幕)となった1988年の全土的反体制運動について、その当時、在ビルマ日本国大使館の専門調査員としてヤンゴンに滞在し、目の前で展開された運動を日々必死に追った伊野憲治(北九州市立大学基盤教育センター教授)による回顧と分析である。英領植民地時代の農民叛乱の研究で学位を取った地域研究者らしく、学生と庶民の視線から民主化運動初期の盛り上がりを的確に描いている。
第3章は、日本電波ニュース社を経て、その後アジア・ウォッチの代表として幅広く取材を続けてきた宇崎真によるビルマ軍政の紹介である。取材が難しい軍政内部に独特の方法を駆使して接近し、この国の改革に大きな影を落とす軍とクローニー資本家との生々しい関係を明らかにしている。通常の大手メディアが報道できなかった部分に、ジャーナリストとして可能な限り肉薄した貴重な分析である。
第4章は、経済学者としてビルマの村を30年にわたってきめ細かく調査してきた髙橋昭雄(東京大学東洋文化研究所教授)による農村の社会変容の分析である。政府統計に依拠するのではなく、それを参照しつつも、自らが継続しておこなってきた農村調査の成果を生かし、マクロとミクロの両方の視点からビルマ農村の特徴をあぶりだしている。そこでは一万人を超す農民へのビルマ語を駆使した聞き取りの成果が生かされている。
第5章は、ビルマ近現代史を専門とする根本敬(上智大学総合グローバル学部教授)による日本とビルマの関係を歴史的に描いたものである。両国の関係史に見られる特徴を、特に日本人が忘れてはならないアジア・太平洋戦争期の負の関わりを軸に紹介し、そのうえで戦後の両国関係の推移と、新政権が抱える課題に対する日本の支援について、これまでの日本の対ビルマ外交の長所と短所それぞれに触れながら論じている。
第6章では、日本で祖国の民主化運動と在日同胞の相互扶助を推し進めてきたビルマ人活動家の歩みを軸に、在日ビルマ人社会の「いま」を追っている。シュエバというビルマ名を持ち、ビルマ語を日本語と同じように使いこなし、日本で一番深くビルマ人活動家たちと交流してきた田辺寿夫(元NHK国際局ビルマ語放送ディレクター)による生き生きとした記述を通じ、彼らの波乱万丈な人生と、現在の祖国に対する見方が伝わってくる。
第7章では、元毎日新聞記者で、1990年代後半に国際的に注目された「アウンサンスーチー ビルマからの手紙」の新聞連載を実現させた永井浩(神田外語大学名誉教授)が、ビルマの民主化問題を国際社会との関係の中で論じている。アウンサンスーチーの政治理念にも触れ、ビルマが新たな「発展のモデル」となり得るか、その可能性を探っている。本書のまとめ的な役割を担う章でもある。
各章には同じ筆者によるコラムが付されてある。トリビア的な話から、より奥深いビルマ認識へと読者を導くものまで含まれており、合わせて読んでいただきたい。
(…後略…)