目次
はしがき
序章 児童労働とはなにか
1 児童労働の定義
2 児童労働の数
3 本書のねらい
第1部 児童労働の実態
第1章 パキスタン・インドにおけるサッカーボールの生産と児童労働
1 はじめに
2 児童労働がなぜサッカーボールの生産現場で見られるのか
3 児童労働の実態
4 児童労働をなくすための試み
5 おわりにあたって
第2章 バングラデシュの船舶解体に見られる児童労働
1 はじめに
2 解体作業で働く児童の実態
3 法的保護の状況
4 小括
第3章 中国の児童労働
1 はじめに
2 中国の児童労働の実態
3 児童労働をなくすための対策
4 外国資本の児童労働への対策
第4章 ベトナムのストリート・チルドレン
1 はじめに
2 ストリート・チルドレンの定義
3 ストリート・チルドレンの実態
4 ストリート・チルドレンの救済対策
5 まとめ
第2部 児童労働をなくすための対策
第5章 児童労働に関する国際的指針
1 OECD多国籍企業ガイドライン(1976年、2000年改訂)
2 ILO多国籍企業および社会政策に関する原則の三者宣言(1977年、2000年、2006年改訂)
3 国連グローバル・コンパクト(2000年、2004年改訂)
4 国連・多国籍企業人権規範(2003年)
第6章 児童労働に関する使用者団体・業界団体の行動規範
1 国際使用者連盟
2 日本経団連
3 観光業界行動倫理規範
4 電子業界行動規範
5 中国におけるCSC9000T
第7章 グローバル(国際的)枠組み協定による児童労働廃絶
1 はじめに
2 高島屋の事例
3 IMF-JCの場合
4 国際使用者連盟の見方
5 小括
第8章 児童労働に関する民間団体の企業行動規範
1 SA8000
2 サリバン原則(1977年)およびグローバル・サリバン原則(1999年)
3 クリーン・クローズ・キャンペーン(Clean Clothes Campaign=CCC)の行動規範
4 ISO26000
第9章 多国籍企業からの対応事例——ナイキの場合
1 はじめに
2 問題の発生
3 行動規範の内容
4 監査・モニタリングの問題
5 NGOとのつながり
6 監査の結果
7 小括
第10章 児童自身の主体的な試み
1 児童による労働組合の設立
2 児童によるNGOの設立
3 児童による国際会議での発言
第11章 様々なレベルでの児童労働対策
1 児童労働撲滅計画(IPEC)
2 タイ労働基準(TLS8001)
3 裁判所による救済
4 ラグマーク運動
5 フェアトレード運動
第12章 カンボジアの2008年人身売買禁止法と日本の協力
1 はじめに
2 制定の経過
3 内容の検討
4 実効性確保のための支援
5 おわりに
〔資料〕カンボジア 人身売買および性的搾取の取締に関する法律
終章 まとめ
1 児童労働の実態分析
2 児童労働をなくすための多様な対策
3 児童労働をなくすために配慮すべき課題
4 今後の課題
参考文献
索引
前書きなど
はしがき
本書は経済のグローバル化が進んでいる中で、アジアの児童労働を撲滅するために、どのような試みがなされているのかを検討することを目的としている。これまでアジア諸国の労働法を研究してきたが、最低就労年齢に達しない児童が労働している実態は、アジア諸国を訪問するといつも目にしてきた。そこでアジア諸国の労働法を研究する上で無視できない問題領域であることを意識させられてきた。しかし、日本では児童労働は過去の問題として注意を向けられることはなくなった。アジアで労働法の国際会議が開催された時に、児童労働がテーマの時になると、日本からの参加者は会議の場からほとんどいなくなってしまうことを、何度か経験した。日本にだって児童労働は長年にわたって悩んできた問題であり、ほぼ消滅してから60年ほどしか経っていない。児童労働を過去の問題とした日本の経験をアジア諸国に伝える必要があるし、そこから学ぶことがあるだろうと考えている。日本にもふたたび貧困の問題が登場し、そこで子どもの貧困の問題が生まれてきている。その中で、経済的に搾取を受ける児童労働が復活する可能性だって否定できない。こう考えると児童労働は、日本を含むアジア諸国にとって、検討し、実践していく課題であると思われる。
これまで折にふれてアジアの児童労働についての論文を書いてきたが、それらをもとに修正を加えつつ整理をしたのが、本書である。直接本書をまとめるきっかけとなったのは、科学研究費による研究プロジェクト「子どもの安全保障の国際学的研究」(代表:初瀬龍平神戸大学名誉教授・京都女子大学教授)に参加して、アジア諸国の児童労働問題を担当することになったことである。この研究会の中間報告として『国際関係のなかの子ども』(御茶の水書房、2009年7月)を発行したが、その中で「児童労働工場労働者としての子ども」を執筆した。この研究会での勉強をさらに展開して、それまで書きためた論文をもとに、自分なりにまとめてみようと思った。本書の題として「グローバル化の中の」という表現をつけたのは、この研究会での研究成果のあらわれである。子どもの生命・身体・精神やその成長を危うくする事象が昔から存在していたが、経済のグローバル化が進む今日では、国を越えて国際関係の中でより問題が先鋭化したり、国際的なつながりの中で解決をはかっていこうとする動きが見られる。児童労働の場合も、経済のグローバル化の中で、企業間の国際競争が厳しくなり、児童がより悲惨な労働条件のもとでの労働を余儀なくされたり、逆に国際的なつながりによって児童を救済していこうとする動きがみられる。そこで「グローバル化の中の」という言葉を付け加えることによって、最近の児童労働をめぐる動きが分析できるのではないかと思っている。この部分の分析については日本労使関係研究協会内に組織された「中小企業のグローバル化と労働条件、職場環境研究会」(代表者:花見忠上智大学名誉教授・弁護士、日本中小企業福祉事業財団より研究助成、2005年度2008年度)での討議に負っている。
(…後略…)