さんの書評2024/10/222いいね!

寅さん、幼少期を語るの巻

幼少期から中学卒業(したのかな?)までの思い出話を酔客相手に語るモノローグ形式で、小説というより寅さんのトークショーっていう感じです。 さすがというか映画監督のお書きになったもので細部の描写が極めてリアル、とても作り話には思えません。映画のせいもあるでしょうけど、登場人物全員が実在の人物に思えてきます。 寅さんは昭和11年生まれという設定だから、5才から9才までは戦争中、9才以降は戦後の混乱期の真っ只中。わたしの母も昭和12年生まれなので、母の時代の人がどういう子供時代を過ごしたのか、そういう観点でも大変興味深く読みました。 ところで山田洋次監督は略歴では大阪生まれの東大卒ということですが、まるで葛飾柴又に生まれ育ったかのようなリアルで感情のこもった描写はどこからくるのでしょう? どうにも実話に思えてしかたありません。それが山田洋次の天賦の才っていうことなんでしょうけど。 本作は父親とケンカして家出するまでで終わっていて、それから20年後、郷里柴又に帰ってくるところから映画第一作が始まるわけですが、本作を読んだ人はまず間違いなく、また映画をみたくなるでしょうね。わたしももう、いてもたってもいられない感じです。

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