目次
まえがき
序 章 本研究の課題と方法
1 研究の課題
2 調査研究の経過
3 「調査」をふりかえって
第Ⅰ部 石炭産業の崩壊と労働者
第1章 石炭産業と労働者
1 炭鉱初期の労働者
2 戦前の労働者給源と流動性
3 戦時体制下の労働給源と戦後の労働者供給
4 「合理化」と雇用形態の変化
5 「流動化政策」と階層分解
6 移動層の定着化
第2章 筑豊と貝島炭砿
1 石炭鉱業の発達
2 戦後の石炭産業
3 貝島炭礦の発展
第3章 貝島炭礦の離職者対策
1 合理化の進展と離職者対策
2 企業の離職者対策と行政の対応
3 就職斡旋課活動の展開
4 就職実態と斡旋業務の解散
第4章 閉山に伴う地域社会の変貌
1 筑豊地域の変動
2 地域生活の実情と課題
3 地域振興の実情と課題
第5章 広域移動離職者の生活歴
1 貝島炭礦閉山と離職者の広域活動
2 雇用促進事業と炭鉱離職者
3 広域移動離職者の生活歴
第6章 非移動離職者の生活歴
1 離職と人口移動
2 非移動離職者の特質と生活実態
3 非移動離職者の居住形態と生活状況
4 離職者の非移動という選択
第Ⅱ部 自分史断片―元炭鉱社員の生活史
第1章 出生から、復員まで
1 幼・少年期
2 高校・大学のころ
3 兵役
第2章 炭鉱人となる(貝島炭礦時代)
1 岩屋炭礦のころ
2 大之浦本社に転勤
3 九州石炭鉱業聯盟に出向
4 大之浦本社に復職
5 炭鉱現場勤務(大之浦第五坑)
6 五坑から本社に戻る
7 用地課のころ
8 就職斡旋課のころ
9 浪人時代
第3章 石炭から、鉄ヘ(製鐵運輸時代)
1 再就職、移住
2 房総半島に住みつく
3 製鐵運輸を退職
第4章 余生
1 年金生活に入る
2 石炭に関係したこと
3 佛教大学研究グループとの出会い
4 町内役職ほか
5 金婚式ほか
第Ⅲ部 石炭産業と地域・教育・家族
第1章 旧産炭地の地域問題と地域振興
1 筑豊地域の地域動向
2 宮田町の地域動向
3 石炭後遺症の克服とトヨタ自動車九州の進出
4 新たな地域振興の模索
第2章 炭鉱と教育―貝島の教育・育英事業を中心に
1 貝島の教育・育英事業
2 貝島の教育・育英事業が果たした役割
3 産炭地域における教育
第3章 離職家族と生活ネットワーク―移動家族と非移動家族の比較分析
1 離職家族と生活ネットワーク
2 高齢期における離職者家族の生活ネットワーク
資料 貝島炭礦略年誌
前書きなど
われわれにとってもっとも重要で、人間として生きる基盤になっているのは、仕事と家族である。その両者に持続性と安定性を図ることが尊重される社会に快適なコミュニティが形成されるのではなかろうか。
今から40年以上前、「去るも地獄、残るも地獄」という地底で働く人々の慟哭を踏み台にして、日本の経済成長は帆走を始めた。農林水産業に始まった「合理化」の波は、その後、繊維、鉄鋼、造船と幾多の産業を「改革」し、そこに働く人々の職を奪い、地域を衰退させてきた。構造不況とか産業高次化という経済変動の実態は、そこで働き、家族生活をいとなむ人々の生活を根底から覆すことであった。多くの人々は、生きるため、愛する家族を護るために、住み慣れた家と土地からの別離を強いられた。それは回帰を困難とする「移住」の強制であった。
本書のタイトルを「移動社会と生活ネットワーク」とした。移動社会とは、戦後日本の経済発展が、産業構造や地域構造を一挙に変化させ社会を流動化させ、親族関係や地縁関係という紐帯を分解され弱化させられたところに構成された日本社会をいう。(中略)
生活ネットワークは、移動社会がもたらした生活諸課題をそれぞれの生活者が主体的にどのような生活価値を選択構成しているのか、その実態を把握する重要な操作概念と位置づけている。