目次
廻り燈籠 お化師匠 幽霊の観世物 半鐘の怪 海坊主 川越次郎兵衛 金の蝋燭 朝顔屋敷
前書きなど
……こんな駈出しの青二才の手柄にされちゃあ、おれは死んでも浮ばれねえ。こん畜生、おぼえていろ。おれが生きていれば屹と仕返しをする。死ねば化けて出る。どっちにしても唯は置かねえから覚悟しろと、おそろしい顔をして散々に呶鳴ったそうです。
いわゆる外道の逆恨みと、もう一つには自棄が手伝って、口から出放題の啖呵を切るのは、こんな奴等にめずらしくない事で、物馴れた岡っ引は平気でせせら笑っていますが、なにを云うにも甚五郎は年が若い、その上に人間がおとなしく出来ているので、そんなことを聴くと余り好い心持はしない。と云って、勿論こいつを免すことは出来ませんから、型のごとくに下調べをして、大番屋へ送り込んでしまいました。
そんなわけで、三甚は石町の金蔵を召捕って、自分の器量をあげた代りに、なんと無くその一件が気にかかって、死罪か遠島か、早く埒が明いて呉れればいいと、心ひそかに祈っている。ましてさつきのおふくろや娘は、ひどくそれを気にかけて、万一彼の金蔵が仕返しにでも来たら大変だと心配している。そのうちに伝馬町の牢破り一件が起って、その六人のなかに本石町無宿の金蔵もまじっていると云うのを聞いて、甚五郎もひやりとしました。牢をぬけて何処へ行ったか知らないが、なんどき仕返しに来ないとも限らない。それを思うと、いよいよ忌な心持になりました。
こっちは役目で罪人を召捕るのですから、それを一々怨まれては堪らない。罪人の方でもそれを承知していますから、こっちが特別に無理な事でもしない限り、どんな悪党でも捕手を怨むと云うことはありません。したがって、捕手に対して仕返しをするなぞと云
う例は滅多にない。それは三甚も承知している筈ですが、気の弱い男だけに、なんだか寝ざめが好くない。併し仮りにも二代目の三甚と名乗っている以上、子分の手前に対しても弱い顔は出来ませんから、自分ひとりの肚のなかでひやひやしている。こうなると、まったく困ったものです。勿論、この甚五郎がしっかりしていて、もう一度その金蔵を召捕りさえすれば何のことも無いのですが、そう行かないので此のお話が始まるのです。まあ、その積りでお聴きください」