目次
ともに歩いて 李登輝前総統の来日の意義
ほか
日本国へのメッセージ講演録 後藤新平と私
日本の教育と台湾
二〇〇七年とその後の世界情勢
日本外国特派員協会における記者会見
李登輝前総統をお迎えして 心の張り声の張り
ほか
前書きなど
私は今回の旅行で、日本はやはり一流の国であると実感しました。まだまだアジアのリーダーとしての自覚が不十分であるなど不安な面はあるものの、日本人の知恵やモラル、そして技術など、これほど素晴らしい国はないのです。こうしたところは台湾もその他の世界の国々も、もっと見習っていいと思います。
私の今回の旅は「学術・文化交流と『奥の細道』探訪の旅」という、いささか長い名前の付いた旅でしたが、お蔭様で成功裡に終えることができました。改めて感謝の意を表するとともに、この記録集が日本人の台湾認識を深め、台湾と日本の交流に役立つことを願っています。また、日本と自由や民主主義などの価値観を共有する台湾は、パートナーとして最もふさわしい隣国であることを理解する縁となることを希望しています。
前回と今回の旅行で私が強く感じたことは、日本は戦後六十年の間に大変な経済発展を遂げているということです。たとえば、この有楽町。私はかつて戦後しばらく住んでおりましたが、そのときの状態と比べてみれば天地の差があります。まったく変わりました。私は昭和二十一年まで、有楽町の近く、新橋の焼け野原の中の一軒家に住んでおりました。日本はこのような焦土の中から立ち上がり、遂に世界第二位の経済大国を作り上げました。
政治も大きく変わり、民主的な平和国家として世界各国の尊敬を得ることができるようになりました。その間における国民の努力と、指導者の正確な指導に敬意を表したいと思います。
もう一つ感じたことは、日本文化の優れた伝統が進歩した社会で失われていなかったということです。確かに失われた面もありますが、ほとんど失われていなかったと私は思っています。
日本人は敗戦の結果、耐え忍ぶしか道がありませんでした。忍耐する、それ以外には何もできず、経済一点張りの繁栄を求めることを余儀なくされたのです。そうした中にあっても、日本人は伝統や文化を失わずに来たのです。
日本での旅行で強く記憶に残っているのは、さまざまな産業におけるサービスの素晴らしさでした。そこには戦前の日本人が持っていた真面目さ、細やかさがはっきりと感じられました。
今の日本の若者はだめだという声も聞きますが、私は決してそうは思いません。日本人は戦前の日本人と同様、日本人の美徳をきちんと保持しています。社会が秩序正しく運営されて、人民の生活が秩序を保って守られているということです。確かに外見的には緩んだ部分もあるでしょう。しかし、それはかつての社会的な束縛から解放されただけで、日本人の多くは今も社会の規則にしたがって行動しています。
私が東京から仙台に行く途中、あるいは日光に行く途中によく観察していましたが、日本人は社会の規則に従い、みな正しく行動しているということです。このような状態はなかなか他の国では見つかりません。社会的な秩序がきちんと保たれ、公共の場所では最高のサービスを提供し、できるだけ清潔な状態を維持しております。長い高速道路を走っていても、チリひとつありません。ここまでできる国は国際的に見て、恐らく日本だけではないでしょうか。