紹介
人と海とのかかわりはいにしえの時代から始まり、その関係性は濃くて深い。人類にとって、海は食料採取の場であり、海辺は居住や憩いの場であり、さらに河口域や入り江は交易の拠点かつ都市文明形成の場にもなってきた。しかし悠久の時の流れの中で海自体も大きく変貌を遂げるが。人と海との関係性はもっぱら人間側の都合により変わり続けている。様々な資源や機能を有する海をめぐる人間側のニーズが社会経済の発展とともに多様化し、従来の食料資源や航路としての機能、居住やくらしの場としての機能は言うまでもなく、海底資源、エネルギー資源、深層水資源、医薬資源、深海生物資源、タラソテラピー機能、海洋性レクリエーション機能などに熱い視線が注がれている。本書はとくに海をめぐるレジャー的利用の動きに焦点を当て、日中両国における海のレジャー的利用に実態を把握しつつ、その振興策の展開および利用に伴って生起する諸問題を解決するためのフォーマル・インフォーマルな調整や管理の実践的経験を分析してきた。その分析を通して海のレジャー的利用の大きな可能性、そして日中における異同が浮かび上がってきた。
目次
まえがき 婁 小波・中原 尚知・原田 幸子・高 翔 v
第Ⅰ部
日本における海のレジャー的利用と管理
第1章 日本人の余暇生活と海のレジャー的利用の展開 中原 尚知・婁 小波 3
1.はじめに 3
2.日本の余暇環境 4
2.1 余暇活動をめぐる環境の変化と現状 4
2.2 余暇支出・活動の動向 5
3.レジャー概念の整理と海洋レジャーの諸形態 8
3.1 レジャーをめぐる諸概念の整理 8
3.2 海洋レジャーの諸形態 10
4.海洋レジャー活動の動向とニーズ 12
4.1 海洋レジャーの動向 12
4.2 釣りレジャーの動向 15
4.3 海洋レジャーへのニーズと課題 18
5.レジャー漁業の動向と特徴 22
5.1 レジャー漁業の活動別地区数 23
5.2 漁業体験について 24
5.3 魚食普及活動について 24
5.4 漁家民宿について 26
5.5 遊漁船業について 26
6.おわりに 28
第2章 海のレジャー的利用とコンフリクトの調整 原田 幸子 31
1.はじめに 31
2.地域資源の特徴と水面の利用制度 32
2.1 地域資源の概念と特徴 32
2.2 地域資源の管理 34
2.3 水面の利用制度 35
3.コンフリクトの発生と「コモンズの悲劇」 36
4.コンフリクトをめぐる調整 38
4.1 伊豆のダイビング利用 38
4.2 徳島県吉野川のラフティング利用 42
5.おわりに:コンフリクト解消のための調整メカニズム 45
第3章 遊漁船業の展開と利用調整 日高 健 49
1.はじめに 49
2.遊漁・遊漁船業の動向と漁業との関係 50
3.遊漁と漁業の利用調整の枠組みの推移 52
3.1 1980年代以前(調整) 52
3.2 1990年代(調整と調和) 52
3.3 2000年代(調整,調和,地域資源の活用) 54
3.4 2019年以降(漁業法の改正と海業) 54
4.利用調整の事例 55
4.1 家島坊勢の遊漁裁判 56
4.2 家島坊勢の自主的な禁漁区域の設定 57
4.3 明石市沿岸のタコ釣りのルール化 58
4.4 田尻漁協における地域資源としての活用 61
5.まとめ 62
第4章 沿岸域におけるプレジャーボート・マリーナの利用と管理
竹ノ内 徳人 65
1.はじめに 65
1.1 沿岸域における海洋レジャーによる利用の背景 65
1.2 対象と範囲 66
2.沿岸域における漁業と海洋レジャーに関する諸局面 67
2.1 沿岸域利用における産業的利用としての水産業 67
2.2 漁業と海洋レジャーの競合・トラブルの実態 68
2.3 プレジャーボートにおける競合の諸局面 68
3.沿岸域におけるプレジャーボート・マリーナに関する現状 69
3.1 小型船舶としてのプレジャーボートの運用制度:免許 69
3.2 プレジャーボートの新規参入のコスト 71
3.3 プレジャーボートの保有隻数と収容隻数の推移と放置艇 71
4.プレジャーボート・マリーナに関する施策と現状 75
4.1 制度改正と各種政策 75
4.2 漁協等関係者によるプレジャーボート・マリーナ管理と効果 75
5.高知県香南市ポートマリーナにおける取り組み 78
5.1 高知県漁協吉川支所のプレジャーボート・マリーナへの対応経緯 78
5.2 漁協組織としてのプレジャーボートへの関心 79
5.3 マリーナ事業に向けた周辺条件と有意性 79
5.4 吉川支所におけるポートマリーナの管理と収益 80
6.おわりに 82
第5章 海洋文化を活用した海洋レジャーの展開と管理 ―帆掛けサバニを事例として― 千足 耕一・蓬郷 尚代 87
1.はじめに 87
2.サバニ帆漕レースが開催されるまでの期間 90
3.サバニ帆漕レースの開催に至る経緯と帆掛けサバニの復興 94
4.サバニ帆漕レースの変遷 95
5.帆掛けサバニの現代的な意義 96
6.メディアへの露出・出版やサバニの利活用の広がり・地域での取り組み 104
第6章 小規模漁業者による海業への取り組みと共同体バイアビリティ ―静岡県伊豆半島「稲取漁港稲荷丸漁船観光クルーズ」の挑戦―
李 銀姫 111
1.はじめに 111
2.地域漁業の概要 113
3.「稲取漁港稲荷丸漁船観光クルーズ」の挑戦 116
3.1 キンメ資源の減少 116
3.2 漁船観光クルーズの展開 117
3.3 取り組みの効果 121
4.稲取地域の漁村共同体バイアビリティ 125
5.おわりに 129
第7章 渚泊の政策的展開とビジネスモデル ―ブルーパーク阿納を事例として― 浪川 珠乃 133
1.はじめに 133
2.漁家民宿の現状 134
3.漁村地域における滞在型旅行の変遷 135
3.1 農林漁業体験民宿の政策的推進 135
3.2 漁村地域における教育旅行の受入れ 136
3.3 農泊推進事業の誕生とその施策 137
4.渚泊ビジネスモデルの事例 139
4.1 渚泊の様々な事例 139
4.2 ブルーパーク阿納の取り組み 140
4.2.1 取り組み概要 140
4.2.2 活動の経緯 140
4.2.3 活動の推進 141
4.2.4 事業継続のための工夫 142
4.3 ブルーパーク阿納の課題 144
5.おわりに:渚泊の展望と課題 144
第8章 魚食レストランの政策的展開と課題 ―静岡県初島と沼津市を事例として― 浪川 珠乃 149
1.はじめに 149
2.魚食レストランの魅力:旅の目的としての食 150
3.魚食レストランの動向と政策的対応 150
3.1 魚食レストラン数の推移 150
3.2 魚食レストランに対する政策的対応:6次産業化事業による推進 152
4.魚食レストランの実践事例 154
4.1 多様な魚食レストラン 154
4.2 初島の食堂 155
4.2.1 初島の概要 155
4.2.2 初島の産業の変化 155
4.2.3 初島地域における魚食レストランの位置づけ 156
4.2.4 初島の食堂の課題 157
4.3 いけすや 158
4.3.1 内浦漁協直営「いけすや」の概要 158
4.3.2 「いけすや」の取り組みと展開 159
4.3.3 「いけすや」の位置づけ 160
4.3.4 「いけすや」の課題 160
5.おわりに:魚食レストラン(漁家レストラン)の展望と課題 161
第9章 海洋レジャーをめぐる調整と環境管理 ―沖縄県座間味村の取り組みを事例として― 婁 小波・蘭 亦青・原田 幸子 165
1.はじめに 165
2.座間味村の概要 166
3.座間味村における海洋観光の展開と利用調整の諸問題 168
3.1 漁業からダイビング観光業への転換:漁家民宿の展開による漁業と観光業との「融合」 168
3.2 域外業者の進出と調整:「レジャー対レジャー」をめぐる調整 170
3.3 環境問題への対応:「環境目的税」の導入 173
1 環境目的税 173
2 導入の経緯 174
3 美ら島税の内容 175
4 美ら島税の使途 176
4.海洋レジャーの展開に伴う利用調整のメカニズム 177
第Ⅱ部
中国における海のレジャー的利用と管理
第10章 中国経済の構造転換と海のレジャー的利用の展開 包 特力根白乙 181
1.中国経済の発展 181
1.1 経済の高度成長 181
1.2 産業構造の変化 183
1.3 国民所得の上昇 184
2.レジャー的ニーズの高まりと海洋レジャーの展開 184
2.1 レジャー的ニーズの高まり 185
2.2 海洋レジャーの展開 185
2.2.1 海浜観光業 187
2.2.2 海洋レジャー漁業 187
2.2.3 マリンスポーツ 189
3.漁業の発展と構造転換:「転産転業」政策の導入 190
3.1 中国漁業の変遷 190
3.2 「転産転業」の推進 190
4.レジャー漁業の勃興と振興政策 192
4.1 レジャー漁業の勃興と発展 192
4.2 レジャー漁業の振興政策 193
5.レジャー漁業の特徴と課題から見える今後の展望 196
5.1 レジャー漁業の特徴 196
5.2 レジャー漁業の課題 196
第11章 中国レジャー漁業研究の展開とレジャー漁業を取り巻く環境
寧 波・余 丹陽 199
1.中国におけるレジャー漁業研究の変遷 199
1.1 発展モデル研究 200
1.2 地域事例研究 201
1.3 構造転換・高度化研究 201
1)融合モデル研究 202
2)産業融合型事例研究 202
2.中国のレジャー漁業を取り巻く環境と課題 203
2.1 レジャー漁業を取り巻く環境変化 203
2.2 レジャー漁業の優位性と問題点 204
2.2.1 優位性 204
2.2.2 問題点 206
3.中国のレジャー漁業発展のための提言 208
4.おわりに 210
第12章 上海市レジャー漁業の現状と金山嘴漁村の構造転換問題
余 丹陽・李 欣 213
1.上海市の概要及びレジャー漁業の現状 213
1.1 上海市の概要 213
1.2 上海市におけるレジャー漁業の展開 214
2.金山嘴漁村の構造転換 217
2.1 金山嘴漁村の概要 217
2.2 金山嘴漁村の漁業発展の歴史 218
3.金山嘴漁村の漁業の衰退 221
3.1 漁場の縮小 221
3.2 過剰漁獲 221
3.3 漁場環境の悪化 221
3.4 漁業の周縁化と海洋経済の台頭 222
4.金山嘴漁村の構造転換からの示唆 222
4.1 構造転換型発展の経験 222
4.2 構造転換型発展の成果と示唆 224
5.おわりに 225
第13章 浙江省におけるレジャー漁業への転換とマネジメント
趙 奇蕾 殷 文偉 227
1.はじめに 227
2.レジャー漁業の「高品質発展」 228
2.1 高品質発展とは 228
2.2 レジャー漁業における「高品質発展」 229
2.3 レジャー漁業の「高品質発展」の基本的枠組み 229
3.浙江省におけるレジャー漁業の展開 231
3.1 レジャー漁業の歴史 231
3.2 レジャー漁業の現状 232
3.3 レジャー漁業経営体の分布 235
4.浙江省におけるレジャー漁業の「高品質発展」の実践 238
4.1 南潯荻港漁庄 238
4.2 象山東門漁村 239
4.3 石塘五嶴村 240
5.浙江省におけるレジャー漁業の「高品質発展」の革新性 241
5.1 政策支援と管理 241
5.2 市場メカニズムと政府の参画 242
5.3 漁船の安全管理 242
6.将来の展望 243
6.1 発展の機会 243
6.2 直面する課題 244
第14章 山東省におけるレジャー漁業発展の現状と特色
江 春嬉 楊 紅生 247
1.はじめに 247
2.レジャー漁業発展の諸条件 248
2.1 自然環境と漁業の動向 248
2.2 レジャー漁業への需要と政府の取り組み 248
2.3 山東省におけるレジャー漁業関連政策の展開 249
3.山東省におけるレジャー漁業の展開とその特徴 252
3.1 近年の動向と業態の充実 252
3.2 レジャー漁業の分布と各地の特色を生かした取り組み 253
4.山東省におけるレジャー漁業の代表事例 254
4.1 日照順風陽光海洋牧場 254
4.1.1 海釣り競技会と放魚祭りの開催 256
4.1.2 「私の1ムーの海」プロジェクト 256
4.1.3 「陽光一号」海上観光プラットフォーム 256
4.2 威海栄成愛蓮湾海洋牧場 257
4.2.1 海洋牧場+海釣り場 257
4.2.2 海上観光+海上交流 258
4.2.3 牧場での採取+海鮮グルメ体験 258
4.2.4 研修受け入れ+海洋科学普及 258
4.3 煙台莱州湾海洋牧場 258
4.3.1 先に牧場・後から漁業 259
4.3.2 プラットフォームの活用 259
4.3.3 文化イベントを通じた広報・宣伝 260
4.3.4 産業体験を通じたブランドの構築 260
5.おわりに 260
第15章 海南島におけるレジャー漁業政策の展開過程 高 翔 263
1.はじめに 263
2.海南島におけるレジャー漁業振興の提起と模索(2010年~2017年) 265
3.海南島におけるレジャー漁業振興の見直し(2018年~2020年) 267
4.海南島におけるレジャー漁業の本格的な推進(2021年~現在) 272
5.おわりに 275
第16章 海南島レジャー漁業の実践と発展のポテンシャル 高 翔 281
1.海南島におけるレジャー漁業の現状 281
2.海南島の海釣り体験 282
3.業界団体の役割の発揮 284
4.海南省におけるレジャー漁業発展の課題と展望 286
4.1 海南省におけるレジャー漁業発展の課題 286
4.2 海南省レジャー漁業の展望 287
5.おわりに 289
第17章 中国民宿業の展開と漁家民宿「漁家楽」の可能性 李 欣 293
1.はじめに 293
2.中国における民宿業の展開と課題 293
2.1 民宿誕生の背景と発展の歴史 293
2.2 民宿業をめぐる政策の動向 294
3.都市部と漁村における民宿業の現状 298
3.1 民宿業をめぐる動向 298
3.2 漁村民宿の課題 299
3.2.1 多様なサービスの不足 300
3.2.2 特色ある文化の活用の不足 300
3.2.3 経営者と利用客の交流不足 300
3.2.4 産業集積の未形成 301
4.「漁家楽」の展開と課題 301
4.1 「漁家楽」を中心とした漁村民宿業の展開 301
4.2 漁家楽の事例 302
4.3 漁家楽の課題 303
5.おわりに 304
終 章 日中における海のレジャー的利用の特徴と課題
中原 尚知・原田 幸子 307
1.はじめに 307
2.日本における海のレジャー的利用と管理をめぐって 307
3.中国における海のレジャー的利用と管理をめぐって 312
4.日中における海のレジャー的利用の可能性と課題 316
索引 319
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