紹介
インリアル・アプローチとは、ことばの遅れや自閉スペクトラム症、中・重度の知的能力障害のある子どもから高次脳機能障害のある成人まで、ことばが出ない・遅い・通じない人の学習とコミュニケーション能力を促進させる指導法です。
かかわる側が対応を変え、楽しいコミュニケーション経験を積んでもらうことを通して意欲を持って“対人関係能力”“判断・行動できる力”を涵養することを重視します。
入門編と理論・実践編に分かれているため保護者・保育士・幼稚園教諭から言語聴覚士など療育の専門家までOK。
豊富なイラストと多くの事例で抜群のわかりやすさ!
目次
はじめに
この本の使い方
インリアル・アプローチ実践チャート
インリアル・アプローチ用語集
入門編 インリアル・アプローチを始めよう
第1章 私にもできる! 事例から学ぼう
第2章 インリアルの基礎知識を知ろう
理論・実践編 インリアル・アプローチを極める
第1章 ことばの発達
第2章 コミュニケーションの発達段階と遊びのレベル
第3章 インリアルの理論的背景
第4章 大人のかかわり
第5章 トランスクリプト作成
第6章 評価と分析―評価からアプローチを考えるー
第7章 実践事例
コラム
・ブルーナーの「足場かけ」理論
・やりとりの共有を図る「フォーマット」の仕組みと大人の役割
・グライスの「会話の公理」
・心の理論の弱さ~自閉スペクトラム症児の特性と会話の問題~
・言語獲得を促す「共同注意」
・2つの伝達機能の違い~自閉スペクトラム症児に乏しい原叙述~
・遊びや会話、語りの土台となるスクリプトとは
・言語学「語用論」について
・言語の伝達機能
・「マザリーズ(育児語)」の効果
・「行く」?「来る」?幼児や自閉スペクトラム症児には難しいことば
日本におけるインリアル・アプローチの歴史と今後
参考文献
付録
目次
目次
はじめに
この本の使い方
インリアル・アプローチ実践チャート
インリアル・アプローチ用語集
入門編 インリアル・アプローチを始めよう
第1章 私にもできる! 事例から学ぼう
第2章 インリアルの基礎知識を知ろう
理論・実践編 インリアル・アプローチを極める
第1章 ことばの発達
第2章 コミュニケーションの発達段階と遊びのレベル
第3章 インリアルの理論的背景
第4章 大人のかかわり
第5章 トランスクリプト作成
第6章 評価と分析―評価からアプローチを考えるー
第7章 実践事例
コラム
・ブルーナーの「足場かけ」理論
・やりとりの共有を図る「フォーマット」の仕組みと大人の役割
・グライスの「会話の公理」
・心の理論の弱さ~自閉スペクトラム症児の特性と会話の問題~
・言語獲得を促す「共同注意」
・2つの伝達機能の違い~自閉スペクトラム症児に乏しい原叙述~
・遊びや会話、語りの土台となるスクリプトとは
・言語学「語用論」について
・言語の伝達機能
・「マザリーズ(育児語)」の効果
・「行く」?「来る」?幼児や自閉スペクトラム症児には難しいことば
日本におけるインリアル・アプローチの歴史と今後
参考文献
付録
前書きなど
はじめに
かつて、大阪教育大学の竹田研究室に母親と小さな男の子が訪ねて来られました。
「息子はもうすぐ3歳になるのに、いつもあちこちウロウロするばかり。一生懸命話しかけても、こちらを見てくれないし聞いてもくれません。ことばらしいことも言っているようですがよくわからなくて……。いったいどうやってこの子と遊べばいいのか……」
母親は苦しそうな表情を浮かべて、そう訴えました。
当時、竹田研ではインリアルをアメリカで学んできた先生たちを中心に、小学校教員や大学の研究生、OBらが集まって、日本でもインリアルを実践しようと勉強会を続けていました。その実践の場として、ことばに遅れのある子どもたちの相談を行っていたのです。
研究室内をうろうろ動き回っていたサトシ君は、プレイルームが見えた途端、一目散に駆け込んで行きました。そこで、まずはこの日初めて勉強会に参加したAさんが、続いてインリアルを勉強して何度も専門家からの直接指導を受けてきたBさんがサトシ君と遊ぶことになりました。
サトシ君はAさんに関心を示すことはなく、しばらく部屋の中を動き回った後、クレヨンを見つけてクッションに落書きをし始めました。Aさんは「これに書いて」と紙をクッションの上に置きましたが、サトシ君は奇声をあげて紙を払いのけます。Aさんは慌てて紙を裏返し、そこに書かれた車を指さして「これ何? 何かな?」と話しかけます。でも、サトシ君は答えません。そこでAさんが「クルマ描いて、クルマ」と畳みかけると、突然、サトシ君は何かを描きながら「シカカク」と言いました。ところが、Aさんは「シカカク」には答えず、サトシ君の目の前にボールを差し出し「ボールしようか、ボール」と誘います。サトシ君はボールを見ずに再度「シカカク」と言って描き続けます。その様子をしばらく見ていたAさんは「シカカク? シカカクって何?」と尋ねますが、答えは返ってきません。そこでAさんは「高い高いしようか」とサトシ君を抱き上げました。サトシ君も奇声などあげることなく抱かれています。「たかいたか~い」と高く抱き上げられると、サトシ君は少し笑いました。何度か繰り返した後、Aさんがサトシ君を床に降ろそうとすると、サトシ君は足を曲げました。しかし、Aさんはそのままサトシ君を降ろしました。降ろされたサトシ君はAさんから走って離れていきました。
次にBさんがプレイルームに入りました。サトシ君は三輪車にまたがってペダルを漕ごうとしていました。Bさんはすかさず「行くぞー、ブブブブ」とサドルを後ろから押しました。大きなセラピーボールにぶつかりそうになり、サトシ君は小さく「アッ」と言いました。それに気付いたBさんは三輪車をバックさせて「もう一回行くぞ」と言いながらゆっくり押しました。サトシ君は手でセラピーボールを押しのけて、そのまま進むことができました。三輪車を降りると、次にサトシ君はおもちゃのダンプカーの荷台に危なげな様子で乗りました。Bさんは近寄り、「よし、次はダンプ、行くぞ」と言ってゆっくりダンプカーを引っ張ります。サトシ君も笑顔を浮かべながら落ちないようにBさんの腕をしっかり掴んで進んでいきます。三輪車を止めた場所まで来ると、サトシ君はまたダンプカーから降りました。走って離れていくサトシ君に、Bさんは「よし、次はー」と声をかけました。サトシ君は「コーキ」と言っておもちゃのバスにまたがりました。そうやってBさんの「次は?」の声かけに応じるように、何台ものおもちゃに乗っては引っ張ってもらうことを繰り返した後、サトシ君は再び三輪車にまたがりました。Bさんが後ろから押すのですが、ハンドルがうまく回せないサトシ君は壁にぶつかり前に進むことができません。するとサトシ君は三輪車から降り、Bさんのほうに三輪車を押しやりました。Bさんが「よし、乗ろう」と言って三輪車にまたがると、サトシ君は「エヘッ」と笑ってうしろの荷物かごに座りました。「よーし、行くぞー」とBさんが三輪車を漕ぎ始めると、サトシ君は自分からBさんの背中をギュッとつかんで笑顔で進んでいきました。
隣の部屋のモニターで観察していた勉強会のメンバーたちは、2人の先生と遊ぶときに見せるサトシ君の様子の違いに驚きました。
Bさんと遊んでいるときのサトシ君には笑顔があり、Bさんと遊ぶことを楽しんでいるのが表情や姿勢、声ンなどから伝わってきました。
サトシ君は、自分のやりたいことをことばでうまく伝えることができません。ですが、おもちゃのダンプカーの荷台に乗ったときに、「危ないからおりて」ではなく「よし、次はダンプ、行くぞ」と言って引っ張ってもらった瞬間、満面の笑みがこぼれました。その表情から、サトシ君は「やりたいことが通じた、わかってもらえた!」という手ごたえを感じることができたのではないか、と推察できました。
勉強会に参加していた全員が、“言いたいことが伝わると、子どもはこんなにも楽しそうに遊べるのか”と実感したと同時に、子どもの伝えようとしている事柄を正確にキャッチできる大人であることの重要性を痛感した瞬間でもありました。
Bさんはインリアルの理念とそれに基づいた指導法インリアル・アプローチを念頭に、「子どもに合わせて楽しく遊ぶ」ということを考えながら遊んだそうです。
Bさんには「子どもの気持ちをキャッチできるセンス」があったのでしょうか?
それとも「子どもと楽しく遊ぶためのセンス」があったのでしょうか?
では、どのようにすれば、誰もがセンスを磨き、子どもと楽しく遊べるようになれるのでしょう?
その答えが、インリアルの理念であり、具体的な指導法であるインリアル・アプローチなのです。
コミュニケーションの観点からみるとかかわる大人と子どもの立場は対等です。
インリアルでは、大人のかかわり方に沿わないから“一緒に遊べない子ども”ととらえるのではなく、Bさんのように“大人が子どもに合わせて遊んでみよう”と考えます。
その時の楽しさを通して、子どもはコミュニケーションをする相手として大人を信頼し、遊びを楽しみ、笑顔を見せ、自分から一生懸命伝えようとするのです。それが「ことば」になる子どももいれば、大人の目をのぞき込むというような仕草だけの子どももいます。
しかし、そこにはとても大きな意味があると私たちは考えています。