目次
まえがき
序章 隔離された〈経験〉を取り戻す
――再帰的近代における社会学的質的調査の挑戦 小倉康嗣
第1部 質的調査「対象者」との〈出会い〉と〈対話〉
第1章 調査が動き出す
――広島フィールドワークから考える〈出会い〉と〈対話〉の意味 根本雅也
第2章 なぜ調査者は書くのか
――ある原爆被爆者調査の社会調査史 松尾浩一郎
第2部 質的「データ」との〈出会い〉と〈対話〉
第3章 質的データのモダリティ分析
――その人ごとの体験はどのように語られるか 後藤 隆
第4章 質的データのモノグラフ的構成
――経験を問う作業の意味と課題 井腰圭介
第3部 質的調査する「自己」との〈出会い〉と〈対話〉
第5章 出会いと迷い
――質的な研究、というより、ただ人間的で主観的なものの探究 岡原正幸
第6章 ブルデューの反省的社会学と質的調査
――故郷ベアルンのフィールドワークをめぐって 三浦直子
終章 質的社会調査と社会学 有末 賢
あとがき
索引
前書きなど
編者たちは、それぞれの分野で調査研究を積み重ねながら、人間と人間との実存的な〈出会い〉と〈対話〉こそが質的調査の本質であると感じ、考えてきました。社会調査の意味は、たしかに事実や実態を正確に把握し、科学的に解明する方法であるかもしれません。しかし、社会学徒が質的調査を通して出会うのは、いままで経験したこともない、他者の経験や語りであり、感情や非言語的な表出でもあります。そうであるならば質的調査は、まずその驚きを読者、他者に伝えようとする行為から出発するといえるでしょう。それが主観的であろうと相互行為であろうと、その情熱がなければ、質的調査は相手に伝わりません。反省的(再帰的)社会学という視点は、この質的調査の本質と重なっています。(中略)本書の執筆者たちは、それぞれ個別に原爆の被害者調査、災害の被災地調査、都市社会調査、障害者やアートの社会学、サバイバーの社会学、ピエール・ブルデューの社会学など様々な分野で社会学的質的調査を実践し、また理論、方法論や社会学史、社会調査史を研究してきました。今回、〈出会い〉と〈対話〉というキーワードに沿って、新しく執筆していただきました。読者の皆さんと、現代社会学や質的調査研究の原点と意味・意義について対話し、考えていきたいと思います。(本書「まえがき」より)