目次
もくじ
はじめに ································································ 3
第1 章 フーリエ級数展開 ················································· 9
1. 1. フーリエ級数とは 11
1. 2. フーリエ係数の求め方 12
1. 2. 1. sin 関数とcos 関数の積 14
1. 2. 2. sin 関数あるいはcos 関数どうしの積 16
1. 2. 3. フーリエ係数の導出 19
1. 3. フーリエ級数展開の一般式 21
1. 4. 任意周期のフーリエ級数展開 35
1. 5. フーリエサインおよびコサイン級数 39
1. 6. 2 重フーリエ級数展開 43
1. 7. フーリエ級数の収束性 44
補遺1-1 三角関数の公式 46
A1. 1. 加法定理 47
A1. 2. 倍角の公式 48
A1. 3. 積を和差に変える公式 49
A1. 3. 1. sin A cos B とcos A sin B 49
A1. 3. 2. cos A cos B とsin A sin B 49
第2 章 直交関数系 ······················································ 51
2. 1. ベクトルの内積 51
2. 2. ベクトルの展開 55
2. 3. 関数の内積 57
2. 4. 関数のノルム 60
2. 5. 正規直交系 62
2. 6. フーリエ級数成分の正規化 64
2. 7. 関数とベクトル 68
2. 7. 1. 関数に対応するベクトル 69
2. 7. 2. 関数のノルム 70
2. 7. 3. 分割数による補正 71
2. 7. 4. 関数ベクトルのノルム 73
2. 8. 複素数 74
2. 8. 1. 複素ベクトルの内積 75
2. 8. 2. 複素関数の内積 77
第3 章 複素フーリエ級数 ············································· 79
3. 1. 複素フーリエ級数展開 80
3. 2. 複素フーリエ係数 82
3. 3. 任意周期の複素フーリエ級数 89
3. 4. 2 重フーリエ級数 91
3. 5. パーセヴァルの等式 92
3. 5. 1. パーセヴァルの等式の導出 92
3. 5. 2. パーセヴァルの等式の応用 93
3. 5. 3. ベクトルの内積との関係 96
3. 5. 4. 実関数におけるパーセヴァルの等式 96
補遺3-1 オイラーの公式 100
A3. 1. オイラーの公式 100
A3. 2. オイラーの公式の導出 100
A3. 2. 1. べき級数展開 100
A3. 2. 2. 指数関数の展開 102
A3. 2. 3. 三角関数 102
A3. 2. 4. 虚数とオイラーの公式 103
A3. 3. 複素平面と極形式 103
第4 章 微分方程式の解法 ············································ 106
4. 1. 偏微分方程式 106
4. 2. 熱伝導方程式 107
4. 3. 熱伝導方程式の解法 109
4. 4. フーリエ級数と熱伝導方程式の解 113
4. 4. 1. フーリエサイン級数 114
4. 4. 2. フーリエ係数 115
4. 4. 3. 初期条件の温度分布 116
4. 4. 4. 非対称の温度分布 123
4. 5. フーリエ係数がt の変数 126
4. 6. 波動方程式 128
4. 7. 変数分離による解法 130
4. 8. フーリエ級数による解法 133
4. 9. ラプラス方程式 135
4. 10. フーリエ級数によるラプラス方程式の解法 137
補遺4-1 双曲線関数 152
第5 章 フーリエ積分とフーリエ変換 ································· 154
5. 1. フーリエ級数から積分への拡張 154
5. 2. フーリエ積分における周期の考え方 159
5. 3. フーリエ積分におけるフーリエ係数 160
5. 4. フーリエ変換 162
5. 4. 1. フーリエ級数 162
5. 4. 2. フーリエ積分 165
5. 4. 3. フーリエ逆変換 167
5. 5. 主役はフーリエ変換 168
5. 6. フーリエコサインならびにサイン変換 171
5. 7. デルタ関数 173
5. 8. フーリエ変換の制限 177
5. 9. 階段関数 181
補遺5-1 フーリエ変換の係数 183
補遺5-2 フーリエ変換の変数 185
A5. 2. 1. t →ω のフーリエ変換 185
A5. 2. 2. 無次元数と不確定性関係 186
A5. 2. 3. 運動量空間 186
第6 章 フーリエ変換の応用 ······································· 188
6. 1. 変数変換 188
6. 2. フーリエ変換の特徴 190
6. 3. コンボルーション定理 194
6. 4. 微分方程式の解法 197
6. 4. 1. 電気回路 199
6. 4. 2. 熱伝導方程式 201
6. 4. 3. 波動方程式 209
6. 4. 4. ラプラス方程式 213
おわりに ································································ 214
前書きなど
はじめに
太陽光は、7 色の虹になる。太陽光は波長(よって波数)の異なる光が合成さ
れたものであるが、プリズムを使えば、屈折率の差を利用して、7 色に分解する
ことができる。虹は、空気中の水滴がプリズムの働きをすることで観察される現
象である。実は、このプリズムの働きをするのが、フーリエ解析なのである。
世の中の物理現象には、波のかたちをしたものが多い。冒頭で紹介した光も電
磁波と呼ばれる波である。弦の振動や、熱伝導も波である。交流回路、電波信号、
音も波である。そして、量子力学の対象である電子もが波なのである。これら波
はsin 波やcos 波などの三角関数で表現できる。
ただし、実際に観察される波は単純ではなく、実に複雑である。しかし、この
場合でも基本周波数ならびに、その整数倍の周波数からなる三角関数の和として
表現できる。フーリエ解析とは、観察される複雑な波を分解し、基本的な波の成
分であるsin x, cos x, sin 2x, cos 2x, sin 3x, cos 3x, … がどれだけ含まれ
ているかを求める操作に相当する。これをスペクトル分解と呼んでいる。太陽光
も、スペクトル分解することで虹になるのである。
19 世紀のはじめに、フランスの数学者であるフーリエ (J. B. Fourier) は、
熱伝導に関する微分方程式を解く過程で、その解が、フーリエ級数と呼ばれる
三角関数の和で表現できることを発見する。その原著論文を読むと、いま、われ
われが使っているものとまったく同じ三角級数であることに驚く。そして、フー
リエの手法は、熱伝導だけではなく、音響や電気信号など、あらゆる波に関する
微分方程式の解法に利用されているのである。
さらに、フーリエ級数を積分に拡張したフーリエ変換は理工系の数学において
重要な位置を占めている。ただし、これはいったい何ものだと思っているひとが
多いと聞く。フーリエ級数がフーリエ変換へと発展した過程が必ずしも明確では
ないからである。周期が無限大の波に対応できると言われても、戸惑う人も多い
のではないだろうか。
また、フーリエ変換には、変数変換という機能がある。それは、位置x と波数
k の変数変換である。この変換によって、x の解法困難な微分方程式がk の扱い
やすい方程式に変換できたとしよう。その式からk を求めたうえで、x に逆変換
すれば、もとの微分方程式の解法ができる。はじめて接すると、その簡単さに驚
き感動する。
さらに、変数変換ということに注目すると、フーリエ変換は、われわれが目に
する実空間から、仮想空間である運動量空間(あるいは波数空間: k 空間)への
変換である。それがどうしたと思われるかもしれないが、実は、その応用が面白
いのである。本書では、その詳細を扱うことはしないが、その一端を紹介してお
こう。金属などの物質の構造を解析するときに、X 線回折を使う。残念ながら、
実空間では金属の中身、つまり構造を目にすることはできない。しかし、X 線を
使って回折像を解析することで、その構造がわかる。この回折像がまさにk 空間
の像なのである。そして、それを、実空間に逆フーリエ変換することで、見えな
い金属の実像が見事に浮かび上がる。
フーリエが熱伝導方程式を解法するために導入したフーリエ級数が、いまでも
微分方程式の解法にそのまま利用されているだけでなく、さらなる発展を遂げ、
多くの先端物理分野にまで影響を与えていることは興味深い。本書を通して、フ
ーリエ級数やフーリエ変換からなるフーリエ解析の意味と、その効用を読者の方々
に実感していただければ幸いである。
2025 年 夏
著者 村上雅人、安富律征、小林忍