目次
はじめに
1 出会い方を変えてみる
ことのはじまり
二〇〇七年、 夏
無力な弱者?
出会い方の大切さ
出会い方を変えて、見方を変える
ホームレスを/と人類学する
路上で/から
2 ホームレス、かく語りき
住まば都、新宿
排除と言えば排除
歩くのが仕事
都市のスキマに座る
あげっぱなしの見返りいらず
やさしさ、ご自由にお持ちください
草野球とメジャー
生きる緊張感を買う
無駄じゃない無駄ないま
肩書きなくして自立なし
つながりに名前はいらない
3 〈ホーム/ホームレス〉のその先へ
路上の声に耳を澄ます
惹きよせられ、追いだされ
歩くこと、住まうこと
スキマをみつける/つくる
うけながす、ずらす、はぐらかす
なんとかなる、なんとかする
その日その日を生きること
わかつこと、つながること
別のかたちで「ある」こと
共犯者/犠牲者であること
かけがえのなさへ
おわりに
前書きなど
「見ようとしないと見えてこない人たち」
池袋で行なわれている「夜回り」に学生を連れて参加したとき、ある女子学生がぽつりと、そう口にした。大学に通うため、彼女は毎日のように池袋駅を利用していると言うが、いつも通る道のすぐそばに、これほど多くのホームレスがいるとは思いもしなかったのだと言う。そして最後に、彼女はこう言い添えた。「見ようとはしてこなかった」、と。
いま思えば、これが本書を作るきっかけだった。複雑な胸の内を必死に伝えようとする彼女をすぐ横で見守りながら、素朴な疑問がふと頭をよぎったのを覚えている。「なぜ彼女は、いや、わたしたちは、彼らを見ようとはしないのか」。
本書は、ホームレスに関するものだが、ホームレスに関するものではない。矛盾している。そう思われるかもしれない。しかし実のところ、そうでもない。どういうことか。不要な誤解と混乱を避けるためにも、まずは本書が目指すものを読者のみなさんと共有することとしよう。
<中略>
ホーム側からホームレスを見るのではなく、ホームレス側からホームレスを、そしてホームレス側からホームを見ること。そしてわたしたちの「アタリマエ」を問いなおし、〈ホーム/ホームレス〉という越えがたい分断をどうにか乗り越えていくための手がかりを見つけだしていくこと。本書はそうした試みを、学生たちの言葉と、わたしが専門とする人類学の視点から、一冊の本としてまとめたものである。
「ホームレス」という、近くて遠い存在に出会ったことでなにが見えてきたのか。彼らを通してわたしたちの「アタリマエ」がどのように揺さぶられたのか。そして、〈ホーム/ホームレス〉という分断を乗り越えていくためにはなにが必要なのか。本書を通して、そのことを少しでも伝えることができたらと思う。