目次
Prologue カメラオヤジの壁|The Camera Geek Wall
木原悠介|Yusuke Kihara
大倉史子|Fumiko Ohkura
北村 公|Koh Kitamura
mimi|mimi
井口直人|Naoto Iguchi
青木大祐|Daiyuu Aoki
露光 零|Ray Tsuyumitsu
Column 間違いだらけのカメラ選び|Choosing the Wrong Camera
島尻武史|Takeshi Shimajiri
今井次郎|Jiro Imai
北村千誉則|Chiyonori Kitamura
天野裕氏|Yuji Amano
杉浦 篤|Atsushi Sugiura
山口慧太郎|Keitaro Yamaguchi
後記|Postscript
「ゆびさきのこい」について|About “Yubisakino Ko i”(“Love at Your Finger tips”)
前書きなど
そんな依頼は来たことがないけれど、もし写真学校で授業してくれと頼まれたとして、1年間いったいな
にを教えたらいいのか僕には見当もつかない。音楽をやりたかったら安いギターを買って曲をつくればいい
のだし、ラッパーになりたかったらノートと鉛筆を持って、そのへんに座ってリリックを書けばいい。それだけ。なのにメーカーと小売店と評論家とレッスンプロによるカメラ産業複合体は、いまだに写真表現の敷
居を下げるどころか上げておくのに必死なように見える。
ライカのシャッター音や暗室の現像液や定着液の匂いに魅せられる気持ちはわかるが、それは単なるフェティッシュにすぎない。自戒を込めて書くけれど、ひとは往々にして「高い機材を買う」ことで一歩前進と
誤解する。実際は1ミリも進んでいないのに。
カメラオヤジが写真談義に興じているあいだに、スマホやコンビニのコピー機で、独自の写真世界を構築
する孤独な長距離走者がいる。音楽マニアがアナログレコードの楽しみを楽しく語っているあいだに、だれ
にも聴いてもらえなそうな音楽をサウンドクラウドに上げつづけるひとがいるように。
写真を“学ぶ”必要なんてない。古今の素晴らしい写真集を見るのも、写真美術館に通うのも楽しいだろ
うけど、写真を撮りはじめる前にそんなことする必要もない。手近なカメラかスマホを掴んで、外に出て気
になるものを撮りまくればいいだけだ。
オリジナルの曲をつくったり、ラップのリリックを書いたりするように、写真も撮ればいい。そうしてい
ま、シャッターを押せば機械のほうで勝手にきちんと撮ってくれるカメラは、思いや衝動がもっともダイレ
クトに、エモーショナルに表現と結びつく、視覚の楽器になった。
本書はこれまで十数年にわたる採集の途上で出会ってきた、「知られざる名曲」のささやかな記録である。(まえがき「カメラオヤジの壁」より抜粋)