紹介
ドイツの片田舎でひとり静かに絵を描いていた少年は、どのようにしてモード界の皇帝と呼ばれるまでになったのか。
シャネル、フェンディのヘッドデザイナーとして一斉を風靡したカール・ラガーフェルドの謎に包まれた人生が、イヴ・サンローランとの確執の真相やアンディ・ウォーホルとの交流、スーパーモデルの先駆けイネス・ド・ラ・フレサンジュとの蜜月などとともに語られる。
カール・ラガーフェルド本人、仲の良かった高田賢三、カールの知人友人38人へのインタビュー取材を通して見えてくる独自の美学が貫かれたその生涯は、故郷ハンブルクの霧から浮かび上がるエルベ川のように美しい。
サングラス・ポニーテール・高い襟・フィンガーレスグローブ。自身をアバターとするセルフブランディングを1970年代にいち早く確立したカールは「モードの傭兵」と自らを呼び、フリーランスのデザイナーとして、フェンディ、クロエ、シャネルといった既存のメゾンに革新的なデザインを提供して、新たな命を吹き込んでいく。
2000年代に入ると、ハイパーラグジュアリーとマスマーケットの間にある大きな隔たりを軽々と乗り越えて、H&Mをはじめとした驚きのコラボレーションを次々と成功させる。
時代の空気を読み新しいトレンドを作り出す現代性、無限の創作エネルギー、比類なき美的センスの源泉には、30万冊の蔵書をもつ無類の本好きとしての文学への敬愛、モナコの高層マンションから北フランスの古城まで、所有した家々の数だけ異なるテーマを持たせていた建築・インテリアへの偏愛、厳格に自分を育てた母親への親愛、そして最愛のパートナー・ジャック・ドゥ・バシェールへの至上の愛があった。
唯一無二の天才デザイナーが愛したもの、その人生におきた出来事を紐解くとき、謎に包まれていたカールの人生哲学がみえてくる。
目次
まえがき
1.知識という鎧
2.静謐なサンクチュアリ
3.異質な少年
4.ディオール、パリの香り
5.解放に沸くパリへ
6.恐るべき子どもたち
7.リッツ パリで朝食を
8.幻影を追い求めて
9.日陰の花
10.両親の呪縛
11.時代のベクトル
12.伝説のはじまり
13.新しい仲間たち
14.カールとエリザベート
15.共鳴し合うふたり
16.皇帝カールの誕生
17.亡霊を逃れて
18.純粋と不純
19.危険な関係
20.カール、城主になる
21.嵐に翻弄される蝶のように
22.落日
23.ココ•シャネルの遺産
24.パリジェンヌ
25.絵画の中で
26.ひとつの時代の終わり
27.至上の愛
28.カールとエリザベス皇太后
29.氷の時代
30.変身
31.話題のダンディ
32.ひとり舞台
33.立つ鳥、跡を濁さず
エピローグ
書誌情報
謝辞
前書きなど
新たなコラボレーション、壮大な建築プロジェクト、そして新作コレクション。カール・ラガーフェルドのプレスルームからは、毎日のように新しい情報が発表されていた。60年以上もの間、歩みを止めることなく、すざまじいペースで発信を続けたカール。
すば抜けて鋭い完成と時代を生き抜く才能を武器に、彼は一線で活躍を続ける唯一無二のクリエイターとなった。そして宝石箱のようなランウェイを彩る作品のひとつひとつを、自らの手でデザインしてきた。
カールは、故郷ドイツではなくフランスを舞台に、完璧にカスタマイズされた「カール・ラガーフェルド」という役柄を演じることにした。世界に知られる、スタイリッシュなモノトーンのロゴとして。
彼の成功を支えたのは、自らを律する独自の美学だ。今を生きることだけを考え、自分の過去は決して振り返らない。その危ういバランスが、いつまでも輝きを失わない新しさを生み、永遠性を秘めた「カール」という存在を育んだのだ。
この伝説の陰には、ひとりの生身の人間がいる。そして、その人にまつわる物語がある。カールの人物像を探り、その物語を紐解くことは、誰も見たことのなかった華やかな成功の源泉をたどること。本書では、その足跡を追い、当時の様子を伝えるさまざまなエピソードを拾いながら、カール・ラガーフェルドという人物の輪郭をなぞっていきたいと思う。