前書きなど
震災を知らない子どもたちの心に、しっかりと「あの日」を残すために。
震災から1か月、被災した仙台市の中野栄あしぐろ保育所を慰問したとき、最初に強く
印象に残ったのは先生たちの明るい笑顔だった。暗く、疲れ切った表情を想像していたぼくは正直とても面食らった。でも、それから10年、毎年保育所に足を運ぶ中で、それがこの保育所のすばらしさであり、先生たちの底知れぬ強さなのだということが少しずつわかってきた。
つらい状況であればあるほど、子どもたちを不安にさせないために「笑顔」こそが何よりも大切であることを彼らは知っていた。恐怖と不安で泣き崩れそうになりながらも、彼女たちは必死で笑顔を向け、そうやって子どもたちの心を支え続けたのだ。
被災地出身の絵本作家として、ぼくにはやらなければならないことがあった。震災から時が経ち、支援の手が少なくなり、人々の記憶から風化していく中で、震災を知らない子どもたちの心にしっかりと「あの日」を残すために、絵本を作らなければならない。あしぐろの先生たちが笑顔で子どもたちを支えた、その姿をしっかりと語り継がなければならない。震災10年を前になんとかその思いを形にすることができた。
先生たちから取材した「あの日」のことは、どれも感銘を受けることばかりだった。地震直後、マニュアルにあった園庭ではなく2階への避難を即座に指示した曾澤先生の的確な判断がなければ、子どもたちは津波に飲み込まれていただろう。胸まで水に浸かりながら保育所に戻った佐藤所長の命がけの勇気がなければ、先生たちの心は折れていたかもしれない、そして、若い先生たちの愛情と忍耐力がなければ、決して子どもたちを守り通すことはできなかっただろう。
ぼくは、そんな彼女たちを心から尊敬してやまない。
そして、各地で同じように、必死で子どもたちを守ったすべての保育士たちにも心から感謝の言葉を伝えたい。
この絵本は、そんなすべての勇気ある人たちに捧げる。
あいはらひろゆき(あとがきより)