目次
第一章 精神分析を再発見するということ
第二章 夢見ることとしての語らいについて
第三章 精神分析的スーパーヴィジョンについて
第四章 精神分析を教えることについて
第五章 分析スタイルの諸要素―ビオンの臨床セミナー
第六章 ビオンの心的機能に関する四原則
第七章 ローワルドを読む―エディプスを着想し直す
第八章 ハロルド・サールズを読む
前書きなど
【監訳者まえがき】より――藤山直樹
トーマス・H・オグデンは1946年生まれの米国の精神分析家であり、今年で75歳になる。彼はきわめて多産な精神分析的な書き手であり、私はキャリアの初期から一貫して、彼の著作に魅了され親しんできた。……彼はすでに11冊の専門的な単著を出版している。最近は二冊の小説も出版した。彼の書いた精神分析の専門書は、詩的な含蓄に富みつつも、その一方でとても平明であるという特色がある。
ここに至るまで、彼は絶えず精神分析実践や精神分析的な人間理解について新しい切り口を提起し、新しい概念を提出しつづけてきた。……この本に立ち現れてくるのは、いよいよ老境に差し掛かり始めた成熟した分析家としての彼である。英文のタイトルの副題に「忘れることforgetting」が含まれていることにそれはよくあらわれている。精神分析の技法や理論を忘れることができるほどに私たちはそれを徹底的に学ばなければならない、と彼は言う。徹底して学び、そしてそれを忘れること。学ぶことは忘れるためであるという逆説。すべての芸術、芸能、技芸の真髄を衝いている金言である。
この本では精神分析実践、スーパーヴィジョン、ケースセミナー、リーディングセミナー、そして先達の著作といった、精神分析的臨床家にとって絶えず身のまわりで関わるものが、題材として取り上げられている。……この本の全体にはとてもくつろいだパーソナルな語り口がある。しかし同時に、高度に凝縮されたアイデアが語られてもいる。
精神分析を再発見する分析家の歩みを考えるとき、極めて有用な概念的道具として彼がこの本で一貫して取り上げているのが、「夢見ることdreaming」という概念である。彼は精神分析実践を患者が夢見ることを分析家が援助することであると考えており、それは「ただ語る」ことができる分析家によって、ふたりのユニークなやりかたでの語り合いを生み出していくことによって達成される。
この本は、読者の方にどのように受け取られるのだろうか。面白いと思って読んでいただけたらいいと思う。ためになる、ではなく。
この本を読んでも、日々の実践がどうしたらうまくいくか、というようなハウトゥーが得られるわけではない。だが、この本を読むという体験を通じて、精神分析を実践することや精神分析的なさまざまな体験がいままでと違った手触りを帯びてくることに、気づくことになるといいと思う。手触り、感触が重要なのである。そしてその新しさが面白く感じられたら、この本の価値もあると思う。
たとえば臨床を始めたばかりの精神科医や心理臨床家の方々がこれを読んで、精神医学や臨床心理学では語ることのできない、ある種の体験、ユニークな営みを体験してみたいという気持ちが生まれたら、ほんとうにうれしいと思う。……