目次
まえがき 『歩き方』とつきあうには
第1週 アルファベットのはなし
第2週 動詞のはなし
第3週 名詞のはなし:男性編
第4週 名詞のはなし:女性・中性編
第5週 時制のはなし
第6週 代名詞のはなし
第7週 前置詞のはなし
第8週 形容詞のはなし
第9週 異態動詞のはなし
第10週 受動態のはなし
第11週 命令法と不定法のはなし
第12週 アクセントのはなし
あとがき 『歩き方』を読み終わったら
前書きなど
ギリシャ語の世界へようこそ!
この本は〈ギリシャ神話に心をひかれる〉とか〈西洋古典を教養として学びたい〉とか〈新約聖書をギリシャ語で読んでみたい〉とか思われる方、しかしまとまった時間を取って古代ギリシャ語の講義を受講するような余裕がない人に、ゼロから少しずつ積み上げてギリシャ語に慣れ親しんでいただけたらという思いで書かれました。あるいは、〈以前古
代ギリシャ語をちょっとだけかじったけどもう忘れてしまった〉という人にとって本書がその記憶を呼び起こすきっかけになれば、嬉しく思います。そのようにして一人でも多くの方に魅力あるギリシャ語に触れていただいて、ギリシャ愛に目覚めていただけたらと願います。
世界はギリシャ語でできている!
西洋文明のゆりかごである古代の地中海世界は、大きく分けるとラテン語とギリシャ語の世界からできていました。ですから最近までヨーロッパの伝統的な寄宿学校などに入れられる子どもたちは、幼いときからラテン語とギリシャ語という2つの古代言語を学ばされたものです。 私(浅野)のイギリス人の友人もそのような幼少時のことを懐かしそうに語ってくれます。古代地中海世界で肩を並べる2つの代表的な言語ですが、ギリシャ語の方が地中海に浮かぶクレタ島を中心とするミュケーナイ文明に起源があるとすると、これは前18─12世紀のことで、ラテン語がイタリア半島で用いられ始めた前8世紀より500年さかのぼることになります。〔中略〕
ラテン語を生み出したローマがいまだイタリア半島の一都市国家だった前4世紀に、ギリシャ半島のつけ根にあたるマケドニア地方にアレクサンドロス大王が生まれました。アレクサンドロス大王は皆さんもご存知のとおり、東はインダス川地域、南はナイル川流域までその勢力を延ばして、当時の世界をその手中に収めました。これによってギリシャ語が世界共通言語(リングア・フランカ)となったのです。じつにアレクサンドロス大王自身もあの偉大な哲学者アリストテレスを家庭教師に迎えて徹底したギリシャ語教育を受けた人物です。その後、地中海世界での覇権争いでローマがギリシャを凌駕したのですが、前1世紀後半にローマが皇帝政治による支配を広げている中でラテン語が公用語になってからでさえ、地中海世界の東側半分では、むしろギリシャ語が共通語として浸透し続けていました。そして当時のラテン語世界はその政治力を駆使して、ギリシャ語世界の科学技術や芸術をせっせと輸入していたのです。じつにラテン語話者のローマ人は、ギリシャの文明に羨望の眼差しを向け続け、ローマ人貴族たちはその子弟らを競ってアテネに留学させてギリシャ語教育を受けさせました。
ですから当時の世界の潤滑油はギリシャ語だったと言っても過言ではありませんし、その影響は今日に至るまで脈々と続いているのです。例えば民主主義(デモクラシー)は現代の日本社会の根幹ですね─ あるいは〈根幹であるべき〉と申しましょうか─ 。この概念も〈デモクラシー〉という語もギリシャ起源です。アテネのアクロポリスのすぐ隣、徒歩で30分ほどのところに小高い丘がありますが、プニュクスと呼ばれるこの丘こそが、人類のデモクラシーの発祥地なのです。ここではおそらく10,000人ほどのアテネ市民(成人男性のみですが)が集って直接民主政を繰り広げました。
その他私たちの何でもない日常会話の中にも、ヨーロッパ語経由でギリシャ語があふれています。例えば……〈あるアスリートはメランコリーな気分が続いたのだけど、クリニックでアロマ・セラピーを受けたらエネルギーが湧いてきたそうな〉。〈あのアイドルは歌わせるとリズムは取れないしハモれないけれど、ドラマではヒロインをつとめて頑張っている〉。〈ミステリー作家アガサ・クリスティのエピソード展開のマジックにはまった〉。下線部はすべてギリシャ語起源です。おまけに、本書を出版したヘウレーカ社の社名もギリシャ語です。もはやギリシャ語なしに日本語の会話が成り立たないというロジックさえ成立します(おっと、ロジックもギリシャ語でした)。このようにギリシャ語に慣れ親しむと、私たちの周りには新たな世界が広がります。
本書の構成
本書は第1週から12週までで構成され、各週が8頁でできていますから、単純計算で1日1頁だけ読んだとしてもほぼ3ヶ月で修了できるようになっています。あまり早く進もうとせず、7日間かけて1週分の内容に慣れ親しむように読まれたらいかがでしょうか。
各週は文法説明のための3頁、理解度チェック(練習問題)のための1頁、その答えと解説のための1頁と進みます。そのあとに「コリントのパウロ物語」というコーナーが設けてあります。コリントを舞台としたパウロとその仲間たちの物語は、最初の週こそほぼすべてが日本語ですが、これが週ごとにすこしずつ既習のギリシャ語に置き換わり、11週目では全文がギリシャ語になります。97頁を見て下さい。ギリシャ語だらけの頁に今は圧倒されても、3ヶ月間ゆっくりと本書を読み進めるならば、無理なくギリシャ語のテクストを読解できていることと思います。各週の最後の見開き頁は「コリント逍遥」と称するコーナーで、パウロがいたコリントにまつわるさまざまなエピソードを写真や図版と一緒に紹介します。それらをとおしてコリントを訪れた気分になってもらえたら良いのですが、それでもやはり一度は皆さんにも実際にコリントを訪ねてみて欲しいと思います。
本書のもう一つ重要な特徴は、ギリシャ語の発音を実際に聞き、発音を練習する機会を提供していることです。これは単なる「補助的」な要素ではなく、効果的な言語習得のために不可欠なステップです。聞くことと、繰り返し発音することは、言語の音やリズム、文法構造を身につけるのに役立ち、最終的な目標である「読む」ことへの習熟度を高めま
す。また、付属の音声では単語のアクセントを強調して発音していますので、音声を聞きながら学ぶ方は(無意識のうちに!)アクセントに慣れ親しむことができるでしょう。 のアイコンが付されている箇所は、単語や文章の発音を聞くことができます。音声に合わせて、ギリシャ語を繰り返し読む練習をしてみてください。なお、第1週ではアルファベットを学びますが、その書き方を紹介する動画があります。音声や動画はら出版社ヘウレーカのホームページでアクセス可能です。