目次
はじめに――永劫たる瞬間
第1章 物語の深淵――隠された意図
序 パステルナークの予言
〔1〕 光と水の寓話――『ローラーとバイオリン』
〔2〕 楽園への越境――『僕の村は戦場だった』
〔3〕 無言の創造力――『アンドレイ・ルブリョフ』
〔4〕 虚空の孤独――『惑星ソラリス』
〔5〕 記憶の牢獄――『鏡』
〔6〕 絶望の中の希望――『ストーカー』
〔7〕 死に至る郷愁――『ノスタルジア』
〔8〕 神なき者の祈り――『サクリファイス』
第2章 家族の投影――芸術的ポートレイトの深層
〔1〕 追慕――『ローラーとバイオリン』
〔2〕 憤怒――『僕の村は戦場だった』
〔3〕 告白――『アンドレイ・ルブリョフ』
〔4〕 帰順――『惑星ソラリス』
〔5〕 解放――『鏡』
〔6〕 離脱――『ストーカー』
〔7〕 捕囚――『ノスタルジア』
〔8〕 逃亡――『サクリファイス』
第3章 モチーフの躍動――物語を紡ぐ事物
〔1〕 自然と動物
〔2〕 身体と行為
〔3〕 人工物・食物の属性
〔4〕 超自然と信仰
第4章 各時代への視線――内包された予言
〔1〕 この時代に携えるもの
〔2〕 陸前高田の一本松とタルコフスキー
〔3〕 初期の作品に描かれた「戦争」――第二次世界大戦下の核の風景
〔4〕 『惑星ソラリス』――放射線の返礼
〔5〕 『鏡』――汚染された煙と雨
〔6〕 『ストーカー』――核イメージとしての放熱塔
〔7〕 『ノスタルジア』――世界の終わりの風景
〔8〕 『サクリファイス』――核戦争後の夜に
〔9〕 黒澤明の『生きものの記録』との比較
〔10〕 タルコフスキーの視線――私たちのバケツ
年譜
あとがき――収斂と拡散
前書きなど
「はじめに――永劫たる瞬間」より
アンドレイ・タルコフスキーの作品は難解だと言われている。しかしそれは本当だろうか。彼の作品が語られるときは常に芸術性の高さとこの難解さが指摘される。だが芸術性はともかく、この難解さを成り立たせてきたのは、見る人ではなく論じる人たちだったのではないか。
タルコフスキーの作品が公開された頃、映画を論じる人たちは、一回か二回の試写でその作品を解釈しなければならず、「分からない」とは決して言えない。そこで彼らは、風景の美しさやカメラの長回し、演出の緻密さ、色彩の技巧などを讃え、専門用語を駆使しつつ、難解と評価せざるを得なかったのではないだろうか。そしてこの集積が、「難解」という「理解」につながったのである。たしかに一度や二度の鑑賞でタルコフスキーの作品を理解することは今でも難しい。しかし私たちは、DVDやブルーレイ、あるいはインターネットで何度もその作品を見ることができる。つまり現代こそタルコフスキーの作品を――例えば、なぜ『惑星ソラリス』の部屋には雨が降るのかを――理解し得る時代なのである。もちろん、その答えは本書の中にある。(以下略)