紹介
                    閉鎖的な市場で独自の進化を遂げ
多くの制約の下で関係者が必死に開発した末に生まれた
ポンコツ車が次第に愛らしくなってくる!
★モスクヴィッチ(初代) ドイツから強奪したソビエト大衆車の元祖
★ジグリ 皆が羨む高級車だったのに晩年は最底辺
★ザポロージェツ(初代)VWとフィアットを融合させた鉄の豚
★SMZ-S-1L 傷痍軍人に支給されたサイクロプス3輪車
★オカ 走る棺桶と呼ばれたソビエト軽自動車
★ZiS-110 スターリンが愛したソビエト・パッカード
★ヴォルガ 2代目後期型 ソ連崩壊で凋落した官僚向けセダン
★チャイカ 豪華すぎてゴルバチョフに潰された高級車
★ブハンカ 半世紀を超えて愛されるオフロードバン
★GAZ-51 社会主義建設を支えた東側陣営の象徴的存在
☆「ソ連人民の自動車購入方法」「ソ連製ロータリーエンジン」等のコラム
                 
                
                    目次
                    002	まえがき
003	目次
006	ソ連の自動車産業概史
010	本書で登場する自動車工場
019	第1章 人民の乗用車
020	KIM-10 戦災に泣かされたソ連初の大衆車
023	★コラム ソ連車の命名規則
024	MZMA-400/401 モスクヴィッチ 初代 ドイツから強奪したソビエト大衆車の元祖
028	MZMA-402/407/403 モスクヴィッチ 2 代目 西側でも愛されたソ連設計の大衆セダン
032	MZMA-408/412 モスクヴィッチ 3 代目前期型 好調な輸出に支えられたコンパクトセダン
036	AZLK-2138/2140 モスクヴィッチ 3 代目後期型 停滞の時代を象徴する落ち目のセダン
039	AZLKのコンセプトカー
040	AZLK-2141 モスクヴィッチ 4 代目 新設計で生まれ変わった末代モデル
044	Izh-408/412 モスクヴィッチ 武器屋が作る人民のセダン
048	Izh-2125 コンビ 規制の網をかいくぐる妙案ハッチバック
052	Izhのコンセプトカー
050	Izh-2126 オーダ 後ろ盾に見捨てられた不遇なハッチバック
053	★コラム ソ連人民の自動車購入方法
054	VAZ-2101 ジグリ イタリアから来た新たなスタンダード
058	VAZ-2103 ジグリ ホワイトカラー向けの高級大衆車
060	VAZ-2106 ジグリ 皆が羨む高級車だったのに晩年は最底辺
062	VAZ-2105 ジグリ 無機質無個性のTHE共産主義車
066	VAZ-2108 スプートニク 現代に続く新世代のFFハッチバック
070	VAZ-2110 110 ずんぐり奇怪なプレミアムコンパクト
073	★コラム ソ連の自作車両
074	ZAZ-965 ザポロージェツ 初代 VWとフィアットを融合させた鉄の豚
076	ZAZ-966/968 ザポロージェツ 2 代目 オーバーヒートに怯える人民のアシ車
080	ZAZ-1102 タヴリヤ フィエスタに喧嘩を売るも不戦敗
082	SMZ-S-1L 傷痍軍人に支給されたサイクロプス3輪車
084	SMZ-S-3A 喜劇のアイコンとなった自動式車椅子
086	SMZ-S-3D 障害者に移動の自由をもたらしたマイクロカー
088	VAZ-1111 オカ 走る棺桶と呼ばれたソビエト軽自動車
090	★コラム ソ連の福祉車両
091	第2章 特権階級の乗用車
092	GAZ-A ソ連初の量産乗用車はアメリカ生まれ
095	★コラム ソ連のモータースポーツ① ~黎明期とフォーミュラカー~
096	GAZ-M1 ライセンスを骨までしゃぶりつくしたセダン
100	GAZ-M20 ポベーダ ソ連初のオリジナル設計の乗用車
104	GAZ-M21 ヴォルガ 初代 ソビエト高級車の新たなビッグネーム
108	GAZ-24 ヴォルガ 2 代目前期型 耐久性は折り紙付きの高級セダン
112	GAZ-3102 ヴォルガ 2 代目後期型 ソ連崩壊で凋落した官僚向けセダン
115 	ヴォルガの迷走
116	GAZ-12 ZiM キャデラック風味の官僚向け大型セダン
119	★コラム ソ連のモータースポーツ② ~国際ラリー~
120	GAZ-13 チャイカ 初代 20年間製造が続いたソ連製高級車の極致
124	GAZ-14 チャイカ 2 代目 豪華すぎてゴルバチョフに潰された高級車
127	★コラム ソ連のモータースポーツ③ ~速度記録車~
128	ZiS-101 設計者の首を飛ばした欠陥まみれのリムジン
132	ZiS-110 スターリンが愛したソビエト・パッカード
136	ZiL-111 フルシチョフ時代のVIP向けリムジン
139	★コラム ソ連を走った外国車
140	ZiL-114 ブレジネフ時代のフラッグシップ
143	★コラム ソ連のロータリーエンジン
144	ZiL-4104 指導者の交代で顔が変わる巨大リムジン
149	第3章 オフロードカー
150	GAZ-61 設計は無茶だが技術獲得の立役者
152	GAZ-64/67 突貫作業で生まれたソビエト・ジープ
153	GAZ/UAZ-69 東側世界の標準装備となった小型オフロード
154	UAZ-469 40年間製造が続いた長寿オフロードカー
155	UAZ-3160 政府に裏切られたソビエト・ランクル
156	UAZ-450/452/3741 « ブハンカ» 半世紀を超えて愛されるオフロードバン
158	LuAZ-969/1302 « ヴォリーニ» 用途が特殊すぎたソ連初の民生オフロード
160	GAZ-M72 乗用車とトラックを融合したキメラSUV
162	MZMA-410 モスクヴィッチ フルシチョフ肝煎りの魔改造SUV
164	VAZ-2121 ニーヴァ 西側に衝撃を与えた大衆SUVの新星
168 	民生オフロードカーの試作車たち
169	第4章 トラック
170	AMO-F15 どさくさに紛れてコピーした初の国産自動車
171	AMO-2/3 アメリカから買い付け、勝手に国産化
172	ZiS-5 戦勝に貢献した国民的中型トラック
174	ZiS-150/164 あらゆる場面で活躍した戦後型トラック
176	ZiL-130 ソ連の経済発展を支えた伝説的トラック
178	ZiL-4331 悪くはなかったが、発売が10年遅かった
179	KAZ-606/608 « コルヒーダ» グルジア生まれの鉱山用トレーラー
180	UralZiS-355 疎開先で独自進化を遂げた旧式トラック
181	UralZiS-355M 極寒地域特化の適材適所トラック
182	UralAZ-375 ソ連軍の輸送を支えたオフロードトラック
183	UralAZ-4320 石油危機で誕生したディーゼル仕様車
184	GAZ-AA 赤軍を支えたアメリカ生まれの小型トラック
186	GAZ-51 社会主義建設を支えた東側陣営の象徴的存在
188	GAZ-52/53 国家にも人民にも寄り添った万能トラック
190	GAZ-66 人間工学完全無視のオフロードトラック
191	GAZ-3307 時代遅れながらも、結果的には長寿車種
192	YaGAZ-Ya-3 過負荷に苦しんだ初の国産大型トラック
193	YaAZ-YaG-3 ソ連の工業化を支えた大型トラック
194	YaAZ/MAZ-200 2ストディーゼルが呻る戦後の大型トラック
195	MAZ-500 キャブオーバーを採用した先進設計トラック
196	MAZ-5336 現代に続く欧州基準の民生用トラック
197	KamAZ-5320 軍民問わず幅広く活躍する新世代トラック
198	その他のトラックと特殊車両
200	★コラム ソ連のモータースポーツ④ ~トラックレース~
201	第5章 バスとバン
202	ZiS-8 トラックベースの最古参国産バス
203	ZiS-16 景観を意識した流麗な流線形ボディ
204	ZiS-154 ソ連には早すぎたe-Powerバス
205	ZiS-155 退化するも堅実な設計で路線を支えたバス
206	ZiS-127 国際規格不適合で引退を強いられた不遇バス
207	ZiL/LiAZ-158 急遽開発された延命仕様の大型バス
208	LiAZ-677 新技術を多数盛り込んだ大食いバス
209	LiAZ-5256 現代に繋がる新世代の都市型路線バス
210	LAZ-695 ウクライナ生まれの流麗な中型バス
212	LAZ-4202 政府指示の突貫作業で生まれた不良品
213	GAZ-3 1940年代の郊外路線を支えた小型バス
214	GZA/KAvZ/PAZ/RAF-651 ソ連全土で製造された人民のアシ
216	PAZ-652 先進的なモノコックボディの小型バス
217	PAZ-672 耐久性には自信アリ!地方都市人民のアシ
218	PAZ-3205 先進設計のおかげで30年間現役車種
219	KAvZ-685 農村人民に寄り添うボンネットバス
220	KAvZ-3976 設計が古すぎて路線バスとして認められず
221	少数生産バス
224	★コラム トロリーバス
226	RAF-10 フェスティヴァーリ ラトビア生まれの元祖ソ連ミニバス
228	RAF-977 ラトビア(初代) 路線網の拡充に貢献した公共交通の革命児
230	RAF-2203 ラトビア(2代目) モスクワ五輪を陰で支えた新世代ミニバス
233	ErAZ-762 アルメニア育ちの低耐久性おんぼろバン
234	GAZ-2705/3302/3221 GAZの窮地を救った新時代の看板車種
235	SARB-スタルト ドンバス生まれの挑戦的ミニバス
236	ZiL-118/3207 ユーノスチ 国内外で絶賛された悲運の高級ミニバス
238	あとがき
239	参考文献
                 
                
                    前書きなど
                    自動車は、世相の鏡である。内外装のデザインは時代の流行に大きく左右されるし、装備や性能は人々の安全意識や環境意識によって変化してきた。また、自動車文化というものは、国や地域によっても大きく異なる。経済基盤の強い国では自国内で自動車産業が発達するし、そうでない国では輸入に頼ることになる。後者の中でも、どのような自動車を使うかは、経済状況や国際関係によって千差万別だ。20世紀以降、人類の重要なパートナーとなった自動車には、その国や地域の経済事情、政治状況、時代の流行など、ありとあらゆる社会情勢が反映されているのだ。
これは、ソビエト連邦を始めとする旧東欧共産圏の諸国においても同様である。生産手段の私有が禁止された社会主義国家では、自動車産業は国家による管理下に置かれた。どのような自動車を作り、どのように人民に供給するかは、全て国家によって決定される。これは、共産圏においては、市場の需要と企業の資本力のバランスで成り立つ資本主義諸国とは根本的に異なる自動車文化が形成されることを意味する。国家の経済力や人民の生活水準、政治思想、産業政策などの世相が、国家の意思によって自動車文化に如実に反映されるのだ。ことソ連においては、1930年代以来、国内の自動車需要はほぼ全て自国で賄ってきた。世界のどこにも類を見ない「共産主義車」だけの特異な自動車文化が育まれてきたことは想像に難くない。なんとも面白そうな話ではないか。
ところが、我が国におけるソ連の自動車文化の扱いはあまりにも小さい。東西冷戦下においてソ連車が日本に輸入されることがほぼなく、(軍用車を除いては)重要視されることもなかったし、世界の自動車史における目立った功績がソ連車にあまりないのも大きな要因だろう。ニッチなジャンルとして断片的な情報だけが独り歩きし、「西側の製品をパクったポンコツ車」程度の扱いをされるのが関の山である。残念ながらそれは概ね正しい。しかし同時に、そのような自動車たちが、ソ連の成立から崩壊まで、そして各共和国が独立した現在でも、人民の生活に寄り添い、愛され、彼らの誇りとなったかけがえのない存在であることもまた事実である。掘り下げれば掘り下げるほど、独自の自動車文化に醸成された旨みが出てくるはずだ。
本書は、日本の自動車界隈では日陰者だったソ連の自動車に光を当てる試みである。いかなる状況で開発に至り、その結果どのような特性を持つ自動車が誕生し、そしてどのように人民に扱われたのかという情報を、旧ソ連圏をはじめとする東欧諸国で撮りためた写真と共にお送りする。自動車に詳しくない方でも親しみやすいよう、専門技術的な話は最小限にとどめ、各車種の成り立ちや時代背景、雑学的な話題を多めに盛り込んだ。車種の選定においては、ソ連の自動車産業における世相の反映をテーマとし、民生品としての乗用車を最優先として、次いでトラックやバスに紙面を割いた。愛好家が多いであろう軍用車について多く触れられなかった点はご容赦願いたい。なお、生産開始がソ連崩壊以降となった「ロシア車」や「ウクライナ車」などがいくつか含まれるが、本書で取り上げた車種はいずれもソ連時代に開発が始まったものであり、広義のソ連車として扱うこととした。
それでは、謎に満ちた「共産主義車」の世界を覗いてみよう。