紹介
原発に向かい歩き出す方舟、片目を共有する2つの顔、《震災後ノート》。
3.11後の日本/混迷する世界で美術とともに生きるとは?
美術家・山口啓介の創作と思索をたどる本。
作品の図版とともに、作家自身の言葉や文章、
アトリエの撮りおろし写真やロングインタビューなどもふんだんに掲載しました。
イメージと言葉を行きつ戻りつしながら、楽しんでほしい一冊です。
山口自身によるエッセイを多数収録
《本書目次より》
枯野と幼年期の終わり/色身/膜の存在/イタリア旅行/世界地図/駒井哲郎の死/芸術の遺伝子[草稿]
新進の写真家によるアトリエの風景
アトリエの写真は、東欧の少女のポートレートなどで注目される写真家の山元彩香による撮りおろし。
アトリエの凛とした空気が伝わる美しい写真も本書の見どころです。
やまぐちけいすけ(1962−)
美術家。植物や遺伝子、方舟といったモチーフを通して壮大な作品世界を展開。
2013年に参加した瀬戸内国際芸術祭では男木島の波頭に《歩く方舟》を設置。
人を包み込むようなスケール感のある絵画のほか、版画、彫刻、インスタレーションなど
様々なメディアによる作品を制作している。
目次
ごあいさつ
本書の楽しみ方/凡例
言葉と図版
枯野と幼年期の終わり
色身
膜の存在
イタリア旅行
世界地図
駒井哲郎の死
芸術の遺伝子[草稿]
山口啓介インタビュー
作品リストと解説
略年譜
山口啓介の絵から出歩くための、3つの脇道 竹口浩司(広島市現代美術館)
初出一覧
前書きなど
美術家 山口啓介(1962ー)は1980年代後半、方舟を描いた大型の銅版画作品でデビューし、
一躍注目を浴びました。以後は版画にとどまず、花や種子、心臓、人体とモチーフを変化させながら、
絵画や立体などさまざまかたちで作品を生み出しています。
一方、東日本大震災が起きた3日後、2011年3月14日から山口は、後に《震災後ノート》と
名付けることになる「日記」をつけはじめ、今日まで1日も欠かさず書き続けています。
原子力発電にまつわる情報を中心にした日々のニュースがひたすら書き写されるそのノートは、
現実の流れに抗して自分の足で歩こうとする山口の意思の現れといえるでしょう。
「人は未来を見ることはできず、見えるのは過去か、今という瞬間だけだから、
後ろむきに前に進んでいるようなものだ。」そう語る山口は現在、大型絵画の制作に力を注ぎ、
いよいよ力強いイメージを実現しています。
広島市現代美術館では、もはやまっすぐ進むことも困難なほどのたくさんの過去や記憶を背負いながら、
それでもなお歩き続けるための術を山口とともに探る特別展「山口啓介 後ろむきに前に歩く」を開催します。
(「ごあいさつ」より)