目次
0 第二世界は存在する
第I部 場所
1 反復される川の記憶
2 カリブ海の移動と交流
3 アフリカの魂を探して
4 アメリカのニグロ・スピリチュアル
5 ファトゥ・ディオムの薄紫色
6 レザルド川再訪
7 レイシズムのアメリカ
第II部 境界
1 絶対的暴力の牢獄
2 分からなさの向こう側を想像する
3 岩手県の幻冬小説
4 文明のなかの居心地悪さ
5 アパルトヘイト終焉期を撮る
6 テロルという戦場
7 ディストピア小説に映し出される近未来
第III部 生
1 ジャン・ベルナベ(一九四二―二〇一七)
2 パスカル・カザノヴァ(一九五九―二〇一八)
3 フランソワ・マトゥロン(一九五五―二〇二一)
4 ヤンボ・ウォロゲム(一九四〇―二〇一七)
5 東松照明(一九三〇―二〇一二)
6 ジャック・クルシル(一九三八―二〇二〇)
7 コレット・マニー(一九二六―一九九七)
第IV部 交響
1 アナキズムと詩的知恵
2 口頭伝承と神話的思考
3 フランス国立図書館と作家研究
4 ニューカレドニアの民族誌
5 震えとしての言葉
6 野生の思考と芸術
7 詩人たちの第二世界
あとがき 第二世界の地図作成のために
前書きなど
《第二世界の〈場所〉とは、たとえば、空を飛ぶ鳥たちが巣を作る「静かな崖」であったり、森に住む人々の「大きな樹々」であったり、「石灰岩とダイオウヤシでできた高原」だったりする。それは普段、わたしたちの想像力からは隠されている未知の場所だ。そうした場所に行くことは叶わないけれども、第二世界に向かってわたしたちの想像力を解き放つことはできる。
ところで、第二世界と聞いて、二十世紀のなかで夢見られたもうひとつの世界を呼び起こす人もいるかもしれない。「第三世界」と呼ばれた空間だ。東西冷戦のなかで、資本主義陣営にも社会主義陣営にも属さない、新しい道を新興独立諸国が歩もうとするなかで生まれた合言葉だ。この世界をより良く変革しようという社会的な希望が人々に夢見られ、分かち持たれた。第二世界という言葉は、二十世紀のこうした集団的夢を思い起こさせなくもない。
ところが、そうした理想社会の夢は潰えてしまった。この地上にそんな楽園はやってこないどころか、わたしたちの生きる世界のヴィジョンは、もはや絶望で覆われてしまっている。だからといって、この世界で生きる以上は自分と周囲の人々が幸せであってほしい、というささやかな願いは、そうそう捨て去ることはできないはずだ。第二世界とは、そんな普通のわたしたちのための不屈のヴィジョンだ。そこは、理想社会の夢が潰えたあとに、なおも人々のうちに必要とされるユートピアであり、「国家でも、故郷でも、国でもない」ものとして存在する。
逆説的であるけれども、わたしたちは、第二世界を探しに遠くまで出かける必要はない。その〈場所〉は実はとても身近なところにある。書棚のなかに埋もれた本たちもまたそうした〈場所〉なのだ。》――本文より