目次
1 今、そばに居るひと
一人きりではないときの
佐助に導かれて──谷崎潤一郎『春琴抄』
「すきま」に生きる永遠の女の子──江國香織『すきまのおともだちたち』
阿寒のカンテラ
「優雅」は、こんなにもつつましやかに存在するのだ──山田詠美『無銭優雅』
ロマンティックのマナー
愛の言葉の記憶──内田百閒『恋文』
夜を生きる恋──岡崎祥久『首鳴り姫』
丁寧に感じ、丁寧に生きること──野中柊『きみの歌が聞きたい』
チャームポイントのマナー
恋愛の怖さと甘さ──ダン・ローズ『コンスエラ 七つの愛の狂気』
2 小さな光をあつめるように
先に生まれてはきたけれど
玄関先のマナー
こころに描く「幻」の効力
薬品の匂い漂うなかで──星新一
命の輝き──岡本かの子『家霊』
絵を習う
昨日、花を買った
その場のその場、その言葉たち──三崎いしいしんじ祭
食材のマナー
ものすごく悲しくて、きれいな光──川上弘美『パレード』
あたたかい謎──堀江敏幸『めぐらし屋』
3 切なさの先にあるもの
夜明けのマナー
「なんでもなさ」の残酷さ──江國香織『赤い長靴』
見えないところのそこが
冬の動物園にて動物を想う
ひとしずくの闖入者がもたらすもの──野中ともそ『ぴしゃんちゃん』
白いいどころ
都市の底の幼虫の眠り──栗田有起『オテル モル』
ふる時ふる星
与謝野晶子を演じる者としての与謝野晶子
4 とまどいながら生きていく
生きていくための呪文
あの日の歌
「かわいそう」の神髄に迫る──綿矢りさ『かわいそうだね?』
ひとことのマナー
特別な興奮──八月の青い空
官能の内実──井上荒野『雉猫心中』
沈黙のマナー
産みどころ
神秘と理知──萩原規子『これは王国のかぎ』『樹上のゆりかご』
人間関係のマナー
「まことの心」に通じる言葉──田辺聖子作品について
地表の歴史
あとがき
前書きなど
「好きになった本は、ふと思い出しては読み返す。読み返すたびに、心に響く部分がまるで違うことがあり、驚いてしまう。すっかり忘れていた場面に、妙に反応してしまったり。なぜそんなふうに、読むたびに感じ方が変わるのか。答は簡単。自分が変わったからである。本の中身は変わらないのだから。
年月が過ぎれば自分をとりまく環境や状況がどんどん変わり、身体は年を取っていく。いやおうなく。でも、一度まとめられた本の中の世界は、ぴたりと閉じれば固い表紙に守られて、ずっと変わらない。書いた人が、読んだ人が、どんなに変わっても、たとえこの世にいなくなったとしても、どんなに時代が移り変わっても、本の中の世界は、永遠だ」
――本文より