目次
はじめに 田中 克/第1章 筑後川流域から有明海再生を/第2章 陸の森と海の森を心の森がつなぐ〜第四回有明海再生シンポジウム報告〜/第3章 NPO法人SPERA森里海・時代を拓くの誕生/第4章 瀕死と混迷の海・有明海再生への道/おわりに 内山里美/田中 克
前書きなど
本書に取り上げた内容の多くは、二〇一〇年春から福岡県柳川市を中心に進めてきた取り組みを紹介するものです。この間、私たちを取り巻く状況は激変しました。それは言うまでもなく、二〇一一年三月一一日に発生した千年に一度といわれる巨大な地震と津波が東北太平洋沿岸域を直撃したことです。「海は必ず復興する。海辺は壊滅しても、確かな森がある限り」との三陸の漁師のひとことに触発された、有明海の再生を目指す研究者が母体となって、生物と環境に関する調査を進めるボランティア研究チームが生まれ、全国から集まった研究者による合同調査が森から海までをつなぐ視点で継続されるに至りました。その中で私たちは、三陸沿岸で今生じている問題と有明海が抱えている問題は同じ根っこだとの思いを深めています。それは、水際環境の壊滅と再生です。/有明海再生の突破口は、全長七キロにも及ぶ潮受け堤防を設置し、我が国を代表する広大な泥干潟を埋め立てた諫早湾干拓事業の見直しだ、と考えられています。最終的に防災を名目に強行的に設置されたこの潮受け堤防は、諫早湾の生物生産に深刻な影響を及ぼし、閉め切った調整池の環境は発ガン性物質を高濃度に生み出すアオコが大繁殖するほど極端に悪化し、また、司法までをも巻き込んで混乱の極に至っています。/このように漁業や沿岸生態系に深刻な影響を及ぼしたばかりでなく、海とともに暮らしていた漁業者の間に、さらに森で涵養された水の恵みをともに受けて生きる農業者と漁業者の間に深刻な亀裂を生み出し、地域社会の崩壊をもたらす事態に至っています。この歴史の教訓に学ぶことなく、その二の舞が、さらに大規模なスケールで、東北太平洋沿岸一帯で生じています。福島県から岩手県における海岸線のうち、浜という浜のほとんどすべての総延長三七〇キロにわたって、巨大なコンクリートの防潮堤が張り巡らされようとしています。一体この国は、いつまで同じ誤りを繰り返し続けるのでしょうか。