目次
まえがき
序章 日本人とヨーロッパ人の動物観
・『グリム童話集』における変身
・『日本昔話記録』における変身
第一章 神話の世界
・トヨタマヒメ型の変身譚
・オオモノヌシ型の変身譚
・人から動物への変身
第二章 仏教思想の浸透のなかで
・ヘビとキツネ
・死を媒介とした変身
第三章 中世説話と御伽草子類
・オオモノヌシの後裔
・トヨタマヒメの系譜
・死後転生譚の拡張
第四章 近世の怪異譚
・キツネ・タヌキ・ネコ
・オオカミ・カワウソ・クモその他
・死後転生譚の後退
第五章 古代・中世・近世の説話と現代の昔話
・通婚と報恩を中心に
・疎外と昇華を中心に
前書きなど
ちかごろ人と動物のかかわりあいにかんする議論がさかんである。捕鯨の問題ひとつとっても、今までのような動物にたいする気ままな振舞いにたいし抵抗がうまれつつあることがわかる。しかしもともと日本人の心の伝統においては、人と動物との一体感がつよかった、としばしば指摘されてきた。
動物にたいする感じかた、考えかたは歴史の産物であり、現状を理解し将来を見とおすためには、過去にむかって流れをさかのぼってみなければならない。
本書においては、『古事記』『日本書紀』が編集された古代から、奇談集や見聞録がさかんに読まれた近世にいたるまでの、変身説話を主な素材にしながら、日本人の動物観の歴史をたどってみようと思う。さらには古代・中世・近世の変身譚を現在の昔話における変身譚と比較して、一応の結論をえたい。本書における研究は、いわば基礎科学の仕事である。そして基礎科学の成果なしに実学の達成が豊になりにくいことはいうまでもない。
(まえがきより)