目次
I 人類学者レヴィ=ストロース
II 音楽家レヴィ=ストロース
III 論争家レヴィ=ストロース
IV さまざまな構造主義
V 構造主義者レヴィ=ストロース
VI レヴィ=ストロースとワーグナー──愛の断念
VII レヴィ=ストロースから《ペレアス》へ
VIII 比較記号学Ⅰ─音楽・神話・言語
IX レヴィ=ストロース対現代音楽家
X 現代音楽家対レヴィ=ストロース──
XI 構造と形式──誤解
XII 論争の影響と後継者
XIII ベリオのオマージュ──思想家・著作家レヴィ=ストロースへ
XIV 比較記号学Ⅱ──物語としての音楽
XV 音楽学者レヴィ=ストロース──ラヴェルの《ボレロ》分析
XVI 音楽は物語を語るか
XVII 神話と音楽の起源神話
XVIII 考え方の起源
XIX 構造主義と呪術
XX 矛盾した道程の失敗と成功
訳者あとがき
参考文献
人名索引
前書きなど
I 人類学者レヴィ= ストロース
クロード・レヴィ=ストロースは一九〇八年一一月二八日の生まれである。一九八八年、ディディエ・エリボンはレヴィ=ストロースとの実りある対談集『遠近の回想』を出版し、その裏表紙のコメントで、彼を「現代のもっとも偉大な知性のひとり」)と評している。一九九三年、『フィガロ』紙の記者は彼のなかに「フランス思想最後の巨人」をみいだし、さらにその一五年後には、二〇〇八年五月一日付の『ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』誌でも「巨人の最後の人」、二〇〇八年五月の『マガジン・リテレール』誌では、「世紀の思想家」と形容されている。わたしがこの原稿を書いている現在︹二〇〇八年︺、ロラン・バルト、ピエール・ブルデュー、ジャック・デリダ、ジョルジュ・デュメジル、ジャック・ラカン、ミシェル・フーコー等とならんで、レヴィ=ストロースは、戦後のフランス文化に特性を与える貢献をした、人文科学におけるフランス語圏思想家の最後の代表のひとりであり、このことは、彼が一〇〇歳を迎える今日、その著作をあらためて検討してみるのにじゅうぶんな理由となるだろう。彼の業績はたしかに、ひとつの研究動向の出現と構築と発展に関与しており、その動向の名は、厳密な科学的内容こそ欠けているものの、いまだに多くの人々に知られているのだから、ここでその大原則を総括してみたいと思うのだ。しかも構造主義は、おおかたは彼の業績の威光ゆえに、マルクス主義や精神分析とともに三大パラダイムのひとつとなっており、二〇世紀には、この三大パラダイムを用いて、とりわけフランス語圏やラテン文化圏諸国では、個人的レヴェルでも、文化的かつ社会的レヴェルにおいても、人間の活動と所産の解明が試みられたのである。これはマルクス主義と精神分析については明らかであるが、構造主義についてはおそらく、それほど明らかとはいえない。しかしそれはたしかに、構造主義が出現したときに与えられた威光を反映しているのであって、もっとも見識ある解説者のひとりイヴァン・シモニスは一九六八年、ためらいなくつぎのように書いている。「構造主義は認識の条件、つまり、ものごとやできごとに対する基本的な反応を変化させるための試みなのだ」。
本書の目的は、この人類学者によって徐々に構築されていった理論的かつ方法論的な体系において、音楽がどのように特権的な位置を占めるようになったかを示すことである。すなわち、レヴィ=ストロースが音楽について抱いている観念と、方法を練り上げるさいに音楽に与えた役割の定義を試み、また音楽にかんする彼の態度表明と、それが与えた衝撃の理由を理解しようと試みることである。そうすることによって、二一世紀の今日、われわれからみたその提案の内容と射程を、あらためて評価したいと思うのだ。(以下略)