目次
Frances Hodgson Burnett
Philippa Ann Pearce
Margaret Mahy
Ursula K.Le Guin
Virginia Hamilton
前書きなど
序
他者の声に耳を傾ける。児童文学を学ぶものにとって、最終的に一番大切なのは、作家の声に耳を傾けること、それがようやくわかるようになって久しい。 随分回り道をしたように思うし、事実、迂回したり、後戻りしたように思う。けれど、いま21世紀のはじめに、時代も国も違えた5人の児童文学作家―-フランシス・ホジソン・バーネット、フィリパ・アン・ピアス、マーガレット・マーヒー、アーシュラ・K・ル=グウィン、ヴァジニア・ハミルトン――の声を集める幸せに恵まれた。声の質も、音域、声色も、ボリュームも異なる作家が、密やかに歌いはじめ、やがてはオーケストラに見紛うばかりの大きな響きが一冊の本の中で演奏される様に耳を傾け、その荘厳な調べと軽やかなリズムに心躍る思いである。
Voicesは、大学院の聴講生を中心とした研究会で、時代思潮、歴史、ジェンダー、身体表象を背景に人と作品の資料研究に2年余を費やし、その後作品の精読、最後に読み解く作業を経て生まれた。方法論としては、まずキャラクターや事物のプロフィールを丹念に綴ることで、物語の生と性を蘇らせる源を明らかにする。次にプロットを辿ることで、人と場所の「地図」が浮き彫りにされる。すべてがスタンバイしたところで、緻密に研究し、計算された物語が、次元を超えた地図上を自由奔放に闊歩する。その時、ようやく作家の研ぎ澄まされた、魅力溢れる独自の魔の声が静かに響く。
一つの限定された作品を選び、解読する学びの中で、それぞれの作家の声の底知れぬ深さと幅に迷い、一人の人間がオーケストラのすべての楽器を演奏するエネルギーに圧倒される思いに何度もいたった。それゆえに、舞台上に流れ、歌われる曲想とテーマを眩惑の思いで受け止める聴衆の一人のように感じている。