目次
目次
第1 章ベクトル
1.1 平面(空間) ベクトル
1.2 複素数,複素ベクトル
1.3 ベクトルの和,ベクトルの定数倍,ベクトルの内積
1.4 ベクトルの諸性質
章末問題
第2 章線形写像,一次変換
2.1 線形写像
2.2 回転・線対称の行列表示
2.3 正射影
2.4 線形写像の性質
章末問題
第3 章外積
3.1 外積
章末問題
第4 章行列
4.1 行列の演算
4.2 転置行列
4.3 複素共役行列
4.4 随伴行列
章末問題
第5 章正方行列
5.1 正方行列,単位行列
5.2 逆行列
5.3 対角行列,スカラー行列
5.4 トレース
5.5 べき(冪/巾)
章末問題
第6 章行列の基本変形
6.1 基本変形
6.2 掃き出し法
6.3 標準形と階数
6.4 基本変形と逆行列
章末問題
第7 章一次方程式系の解
7.1 係数行列
7.2 一次方程式系の解
章末問題
7.8 章写像,関係
8.1 写像
8.2 同値関係と商集合
章末問題
第9 章置換
9.1 置換の定義
9.2 互換,恒等置換,逆置換
9.3 置換の積
9.4 (参考)群とは
9.5 置換の符号
9.6 置換とアミダクジ
章末問題
第10 章行列式
10.1 行列式の定義
10.2 対角行列の行列式
10.3 転置行列の行列式
10.4 行列式の多重線形性,交代性
10.5 積の行列式
10.6 行列式の特徴づけ
10.7 小行列式,余因子
10.8 行列の展開公式
10.9 余因子行列,逆行列の公式
10.10 クラメルの公式
章末問題
第11 章線形写像
11.1 線形空間
11.2 線形写像,同型写像
章末問題
第12 章基底
第13 章部分線形空間
第14 章内積・計量
第15 章固有値と固有ベクトル
第16 章対称行列と2 次曲線
第17 章ジョルダン標準形
前書きなど
まえがき
この教科書は大学の初年度の線形代数の授業で実際に使われた授業ノートをま
とめたものである.授業の対象となる学生はほとんどが数学を専攻しない学生で
あって,一つ一つの定理の詳細な証明は必ずしも必要でないとの配慮から授業を
行っている.一般教養の数学は「考えることを楽しむ科目」であるはずだとの信念
から,最低限の知識を用いて最大限の練習問題を引き出せるように工夫した.そ
のため,練習問題は基礎的な問題からかなり応用的なものまで並ぶこととなった.
実際に期末試験に出題した文章題なども収録してある.
「ゆとり教育」世代になってから,高校までの知識をあまり仮定できなくなっ
た.複素数や行列についても,非常に基本的な内容を念のため含めている.また,
大学の数学固有の記号や言葉についても,高等学校での数学との違いをていねい
に説明することにした.授業の範囲については,大学の初年度ではジョルダン標
準形を教えなくなったが,対角化できない行列の行く末を一応知っていることは
大切だと思うので,最後の章に簡単にまとめた.もちろん最小多項式などには触
れていないので,数学としての厳密さはないことを断っておく.
この本のスタンスは従来の線形代数の教科書とはやや違う.やさしい証明は自
分で考えなさいというのがこの本の目指すところである.解答がなければ勉強で
きません,と学生に言われる今日この頃であるが,頭を絞って解答を考えること
に意味があるのである.散々考えて分からないことは罪ではなく,財産になると
思わなければならない.
あるとき学生から相談を受けた.
「数学を楽しいと思えないんですけど.」
「どうしてでしょう?」
「たくさん考えても答えがわからないので.」
「パズルは好きですか?」
「はい.」
「パズルは答えがわからなくても面白いでしょう?」
「はい.」
「数学も,『考える』ことがおもしろいんですよ.」
単位を取ることに汲々としていると線形代数の多くの計算は最悪に退屈である.
しかし,わずかの定義とルールから問題を考えることは楽しい.楽しい部分を読
者が汲んでくれることを切望してやまない.
通常の大学1 年生で習う線形代数の範囲を超える内容も含まれているが,これ
は,基本的な線形代数の内容から発展的なものを「見る」ことができることを示
すためのものである.そのようなものには*印を付した.*印のついた節や演習
問題は必ずしも学習しなければいけないわけではない.
なお,章末問題の答えは本書にはありません.読者にぜひ自分で考えて欲しいか
らです.ただ,解答例をまったく示さないというのはどうかと思いますので,Web
を通じて公開します.「考える線形代数」で検索すればたどり着けるページを作っ
ておきます.
2010 年元旦
著者