紹介
ご好評をいただいている『まだある。』シリーズの、1960~70年代の「昭和のくらし」を語る新たなシリーズです。
第一弾は「夏休み編」。主に昭和の小学生の「夏休み」を、1学期の終業式からラジオ体操、プール教室、家族旅行、盆踊りや縁日、宿題に追われる8月の終わりまで、時系列に紙上に再現。当時の子どもたちのくらしをエッセイで語りながら、そこに登場する昭和のロングセラー商品を紹介していきます。
アイスやジュース、プール用品や学用品、お中元商品、昆虫採集の道具などなど、「夏」の季節感にあふれた商品たちが満載です。
昭和の子どもたちがどんなふうに「夏休み」を楽しんだのか、また、当時の一般家庭の生活習慣、行事、風物などが楽しく理解できる本です。
目次
まえがき
終業式
ラジオ体操
●コラム「七夕」
プール教室
●コラム「半ズボン」
夏のおやつ 食べもの編
夏のおやつ 飲みもの編
●コラム「ヒヨコの形の夏みかんの皮をむくヤツ」
お風呂、行水、水遊び
夏の虫 害虫編
夏の虫 昆虫編
●コラム「昆虫採集セット」
海水浴
お中元
夏の旅行 電車編
夏の旅行 自動車編
縁日、花火、夏の宵
●コラム「水中花」
夏の読書
宿題
あとがき
索引
前書きなど
まえがき――終わらない夏休み
人間が一生のうちに体験するさまざまな解放感のなかでも、もっとも強烈かつ純粋なのが小学生時代に味わう「一学期の終わり」の解放感ではないかと思う。なにしろ「明日から夏休みっ!」だ。
中高生、まして大学生にもなると、部活がどうの、バイトがどうの、受験がどうの、就活がどうのとかいったアレコレの現実にも考えが及んでしまい、夏休み直前の解放感にもかなりの不純物が混ざる。大人になってからのことは言わずもがなだ。
が、小学生は違う。掛け値なし一〇〇パーセント、完全無欠の解放感と自由に、まさに手放しで浸りきることができる。夏休みはその後も何度もめぐってくるが、これほど無防備な気持ちになれるのは、一生のうちでも小学生時代の六回にわたる夏休みだけだ。
真夏の四〇日間。不思議なもので、大人にとっての一カ月と一〇日など、本当に「あっ!」という間だ。が、七月下旬の小学生には、九月のことなどは想像もできないほど先の話。彼らの時間感覚では、四〇日間はほとんど永遠に近い。永遠につづく「終わらない夏休み」を目前に、子どもたちは、もう、なにをどうしていいのかわからないほどの幸福感に胸をふくらませる。その幸福感の数パーセントでもいい、本書を読む大人の方々が、それぞれの思い出のなかで再び味わいなおしていただければと思う。
夏休みはいつか終わる。大人であれば誰もがそれを知っている。子どもたちでさえも、八月も下旬になれば永遠に思えた夏休みが「あっ!」という間に終わることに気づいて、半ベソをかきながら宿題に追われることになる。「永遠の自由」など存在しない。それを何度も思い知らされることによって、子どもは大人になっていくのだろう。
しかし、記憶のなかの夏休みは依然として完全無欠だ。どんな大人のなかにも、夏休みを永遠だと感じた子ども時代の「勘違い」が刻まれているから。夏休みの記憶は、今もあの日に感じた「永遠の自由」の幸福感に満ちている。
この「終わらない夏休み」の思い出を反芻して、人知れずニヤニヤしたり、ウットリしたりするのは、まさに大人の特権だと思う。