目次
第一章 無痛文明とは何か
無痛文明/人間の「自己家畜化」/身体の欲望/「生命のよろこび」とは何か/「無痛文明」への進化/無痛文明の中の人間/無痛文明論の語り方
第二章 無痛文明における愛の条件
「生命の品質管理学」の登場/選択的中絶と条件付の愛/「条件付ではない愛」とは何か/無痛文明における愛/セックスと自傷行為/無痛文明の二つの戦略
第三章 無痛奔流
大きな渦の中で/刃物は誰に向かって突き出されているか/無痛文明からの様々な攻撃のかたち/「身体の欲望」と「生命の力」の戦い/自縄自縛の三つの次元/敵はどこにいるのか
第四章 暗闇の中での自己解体
私を起点として/社会レベルにおける自縄自縛の解体/共犯関係的支配を解きほぐす/アイデンティティと中心軸/私自身の場合/「出会い」の意味論/果てしなきプロセスとしての愛/絶対孤独ということ
第五章 身体の欲望から生命の欲望へ
「身体の欲望」と「生命の欲望」/苦しみをくぐり抜けること/エロス的な交わりのために/領土拡大に抗して/捕食の連鎖/出世前診断を例に考える/身体・生命・知の三元論/無痛文明を解体し尽くすために
第六章 自然化するテクノロジーの罠
二重管理構造/ランドスケープ・イマージョン/「聖なる場所」への侵入/自然の背後をあばき出す/無痛文明における「自然」の意味/崩壊への戦略
第七章 「私の死」と無痛文明
死の思索/死の恐怖/「私の死」が恐ろしいのはなぜか/出来事としての「私の死」/観念としての「私の死」/中心軸通路
前書きなど
現代社会は、いま、「無痛文明」とういう病理にのみ込まれようとしているのではないだろうか。快にまみれた不安のなかで、よろこびを見失った反復の中で、どこまで行っても出口のない迷路の中で、それでもなお人生を悔いなく生き切りたいと心のどこかでおもっている人々に、私はこの本を届けたいと思う。
第一章から第六章までは、一九九八年から二〇〇〇年まで雑誌に掲載されたものを、原型をとどめないくらい書き直したものである。この連載は、思想に関心を持つ人々のあいだで大きな反響を呼んだ。
その後、結論部分に当たる第七章と第八章を、本書のために書き下ろした。第八章において、「無痛文明」の秘密が、最終的に解き明かされる。
現代社会のなかで、真綿に包まれるような漠然とした不安を覚えるとき、われわれは直感的に「無痛文明」の存在を感じ取っているのかもしれない。この本は、読者が一度は感じたことのあるあろうそのような感覚に、言葉を与えようとする試みなのである。(「はじめに」より)