前書きなど
はじめに— 青い海に沈んだ歴史のカケラ
青々と広がるうなばら海原に多くの島々が浮かぶ東シナ海。沖縄の人々は昔からこの海とともに暮らしてきました。船を漕ぎ出し波を越え島々を往来したり、珊瑚礁の豊かな海産物を獲得したり、時には大陸から交易や外交を求めて船がやってくることもありました。沖縄の歴史を理解する上で、海が非常に重要なフィールドであることは間違いありません。しかしこれまで沖縄の歴史を「海の中から」明らかにしようとする取り組みはほとんどありませんでした。陸の上であれば、発掘された遺跡や昔の人が残した記録から歴史を探ることができますが、海の中を探すことはそう簡単ではないからです。
でも実際は海の中にも様々な「歴史のカケラ」が残されています。右ページの写真ⅶ・ⅷを見てください。中国製陶磁器の破片、ガラス瓶や船の部品の一部——これらはすべて沖縄の海の中の遺跡から引き揚げられたものです。遺跡というと陸の上にあるものと思われがちですが、現在では世界各地の海や湖の中から多くの遺跡が発見され、新しい研究分野として関心が高まりつつあります。沖縄でも近年、この本の執筆者を含む若手の研究者を中心に海の中の調査が進められ、その遺跡・遺物の実態が少しずつ明らかになってきました。この本はその成果をできるだけリアルにわかりやすく紹介するものです。