前書きなど
はじめに
あなたは、沖縄の特徴というと何をイメージしますか。青い海、赤瓦の伝統的な家、沖縄方言、沖縄料理……きっと多くのイメージが出てくることでしょう。
「沖縄の苗字」はどうでしょうか。沖縄という場所で育まれてきた「沖縄の苗字」は、沖縄の特徴の代表選手とも言えるのではないでしょうか。「沖縄の苗字」には、本土では苗字にあまり使用しない漢字が使われていて、独特な読み方なものがあります。
さて突然ですが、ここで皆さんにクイズです。「金城さん」という苗字は何と読むでしょうか。普通に読めば「キンジョウ」といったところでしょうか。残念ながら100点満点の答えであるとは言えません。国際的な俳優で「レッドクリフ」で諸葛亮(孔明)役を演じた「金城武」さん、皆さんご存知ですか。お名前は「カネシロ タケシ」さんですね。ちなみに「沖縄の苗字」は地名に由来するものが多いといわれるので「金城」という地名を見てみましょう。沖縄県で「金城」という地名を探してみると、那覇市内に2ヶ所ありました。首里金城町と小禄字金城という地名です。読み方は、前者が「キンジョウ」で、後者は「カナグスク」です。このように漢字で書くと同じ「金城」ですが、読み方は「キンジョウ」、「カネシロ」、「カナグスク」といろいろあるのです。ちなみに聞いた話ですが、懐かしのヒーローであるウルトラセブンに登場する「キングジョー」というロボット、南風原町出身で脚本家の金城哲夫さんが、御自分の苗字「キンジョウ」をもじって命名したとか……。
このような「沖縄の苗字」に興味を持つ人も多いようで、ためしにインターネットで「沖縄」・「苗字」とキーワードを入力すると、大変多くのサイトやブログがヒットします。その内容はそれぞれですが、ちらほらと「沖縄の苗字はカッコイイ」といった意見も見られます。
これらのサイトやブログの中には、昭和初期に沖縄の苗字が本土風に改められた「改姓改名運動」を取り上げているものも少なくありません。よく勉強をされているようで、「仲村渠」さんが「中村」さんに変わったとか、「金城(カナグスク)」さんが「金城(キンジョウ)」さんへ変わったという事例まで紹介しているものもあります。
沖縄に興味を持っていただくことは大変結構なことなのですが、私はこんな疑問を持っています。沖縄の「カッコイイ」苗字は、「改姓改名運動」で変更された過去を持っています。変更したおかげで「カッコイイ」苗字になったのでしょうか。変更されなかった苗字は「カッコワルイ」苗字なのでしょうか。言い換えてみれば、「カッコイイ」と「カッコワルイ」の間で揺れ動く「沖縄の苗字」の歩みを知りたいということです。
今まで多くの研究者たちが、近代以降の沖縄を明らかにするために、政治や経済そして文化などあらゆる視点から研究に取り組んできましたが、「沖縄の苗字」そのものを視点としたものは多くはありません。そこで私は本稿で、マジメに「沖縄の苗字」の歩みをたどることで、前述の疑問の答えを探しながら、近代以降の沖縄の人たちの苗字に対する思いを探ってみたいと思います。