前書きなど
嘉納さんは、オバアとお子さん撮るのがうまいねぇー。いつか忘れたが、沖縄の飲み屋でのセリフである。沖縄に縁もゆかりもない筆者が、最初に旅したのは、復帰八年(一九八〇年)ごろ、久米島に害虫・ウリミバエの根絶作戦を取材に行ったのが、初めてだった。
そしてそのとき、カメラマンとして同行願ったのが嘉納さんだったのだ。その後、月刊広報誌「原子力文化」にシリーズ「エネルギー一村一品」という連載を一九八四年より開始して、全国のエネルギーに関連する市町村の地域おこしを、15年間に渡って取材した。
本書は、そのシリーズの南西諸島に関するものから選んで、収録したものを主に構成している。南国という地域性から、太陽光や風力の取材が多く、それに放射線の利用としてめざましいウリミバエの根絶の様子を追跡したのも、この地域特有のテーマであった。いまハエ根絶のおかげで、東京は言うに及ばず、全国にゴーヤーチャンプルーが普及したのを見るにつけ、隔世の感がするのだが、さらにスーパーで北関東産のゴーヤーを売っているのは、驚きを禁じ得ない。
さて、毎年のように取材や家族旅行で島々に通ううちに、いつしか東京・新宿の「壺屋」という沖縄料理店に足繁く通うようになった。そこは筆者ごときは新参者で、復帰前から沖縄に通う者がゴロゴロしていた。壺屋のネットワークは沖縄にも通じ、取材や飲み屋探検に大いに役に立ったものである。
人生は運と縁だーというのは、恩師の一人の教えであるが、まさしく沖縄と壺屋の縁と運のおかげで、いつしか沖縄タイムスや雑誌「伽楽可楽」にも書く機会を得た。
嘉納さんとの交友は、かれこれ三十年近くにもなる。取材道中では、鳩間島で水牛に追っかけられて迷子になりかかったり、久高島で日射病になったり……。そうそう、冒頭の筆者のセリフは、久高島でハッとするような美少女を見つけたのに写真を撮らず、代わりに?オバアばかりを撮っていたその夜のことでした。それはともかく、今まで二人三脚で歩いた南西諸島の過ぎゆく風景を記録しておこうと、本書を上梓した。タイトルの「島からの風に吹かれて」は、嘉納さんの写真展「島からの風」に敬意を表して、つけたものである。
ゴーヤーチャンプルーが飲み屋の定番になった陰には、南西諸島でのウリミバエ根絶のドラマがあったこと。離島における電気の切実な問題などを、読みとっていただければ幸いである。