目次
中島省三さんの写真の「位置」
―『湖畔通信』出版に寄せて 福家俊彦
Ⅰ 街 角 大 津
Ⅱ 花 鳥 風 月
Ⅲ 湖 畔 の 風 景
Ⅳ 琵 琶 湖 の 憂 鬱
Ⅴ 水 の マ ジ ッ ク
前書きなど
中島省三さんの写真の「位置」
―『湖畔通信』出版に寄せて
総本山三井寺 長吏 福家 俊彦
心待ちにしている便りが届いた。中島省三さんからのフォトレターである。
中島さんといえば、独自の視点から変貌する琵琶湖の自然や町々の風景、そこで暮らす人々の姿を記録することに軸足を定め、映像や写真で数多くの作品を発表されてきた。お住まいが近いこともあり、結構お会いする機会も多いのだが、もう十五年以上になるだろうか、中島さんが折りにふれて出会った光景のスナップ写真をハガキにして送って頂いている。中島さんらしい観察眼の鋭さと直感的感性が光る写真ばかりであるが、また写真に添えられた短いメッセージも秀逸で、中島さんとの無言の対話とでも言うのか、直接にお話しするのとはまた別の楽しい体験をさせて頂いている。
ところで、このフォトレター、週に二、三枚のペースで送っていただいているので、いまでは膨大な数に上っている。それがあまりに面白いので、独り占めにするには忍びなく、二〇一六年に中島さんの写真展を当山で開催した際に、一部であるが初めて公開させていただいた。目論見通り来場者の評判はすこぶる良く、そのとき感じたのが、もっと多くの方に中島さんの世界の見方というか眼差しを感じてもらいたく何とか一冊にまとめられないだろうかと思って、ようやく実現したのが本書である。
(中略)
かくして、あれやこれやと中島さんの写真と対話を交わしていると、よい写真が撮れないのは対象に近づいていないからだ、と言った二十世紀を代表する戦争写真家ロバート・キャパの言葉を思い出す。たしかにキャパの写真には、戦場で多くの死を見つめてきた彼だけが見ることができた光景が撮し込まれている。
写真は、時代を写すだけでなく、カメラを持つ人の生き様そのものでもある。この世には誰でも撮れるが誰にも撮れない写真が確実に存在する。世界には鍛えられた眼差し、よくものを見る眼をもった人が必要である。まさにそこが中島省三さんの写真の「位置」である。