目次
第一部 樺太アイヌ申上書 近文アイヌ給与地紛争記録
天川恵三郎手記/栗山国四郎翁手記/荒井源次郎上京 日誌/近文土地紛争文書/浜益村給与地請願書
第二部 良 友(虻田土人学校良友会) ウタリグス(アイヌ伝道団)
ウタリ乃光リ(チン青年団)
ウタリ之友(ウタリ之友社)
アイヌ新聞(アイヌ問題研究所・アイヌ新聞社)
全道アイヌ青年大会(関係新聞記事)
旧土人保護施設改善座談会(『北海道社会事業』)
第三部 アイヌ物語(武隈徳三郎)
アイヌの叫び(貝沢藤蔵)
新聞・雑誌投稿 解平運動(森竹竹市)/アイヌより 観たブルジョアジー(M・K生)/一アイヌ の手記(川村才登)/見世物扱ひを中止せよ(森竹竹市)/ウ タリーへの一考察 (森竹竹市)/アイヌ族よ起て(早 川政太郎)/長官と同族へ(清川三蔵)/アイヌ の 名を廃せ(白老コタン生)
資料編 アイヌ「保護」政策関係資料
「北海道旧土人保護法」とその施行規則など/土人保 導委員に関する資料/救療及び救護に関する資料/互 助組合に関する資料/共有財産管理に関する資料/教 育に関する資料/根室県の「旧土人救済方法」/「北 海道旧土人保護法」立法に関する議会資料/1937年 「北海道旧土人保護法」改正に関する内務省資料
「北海道旧土人保護法」制定をめぐる議論
アイヌ人保護(白仁武)/北海道旧土人保護論(伊東 正三)
アイヌ給与地関係資料
近文給与地関係資料/室蘭市・浦河支庁の調査復命書 「旧土人に関する調査」(北海道庁)
参考資料
1雑誌・新聞総目次/2参考文献目録
解 題 小川正人・山田伸一
前書きなど
朝日新聞 1998.3.29
もうひとつの植民地覚醒へと向かう記録 赤坂憲雄
アイヌ民族をめぐる状況はいま、大きな変容を遂げつつある。昨年は、二風谷(にぶたに)ダム訴訟で、アイヌを先住民族として認める判決が下され、「旧土人保護法」の代わりに「アイヌ新法」が成立した。そこに、この大部の資料集が刊行されたことの意味は、かぎりなく大きい。旧版を元にして、近代におけるアイヌ民族の言論の記録を中心に編み直された資料集である。アイヌ自身の生々しい声が幾重にも交錯し、谺(こだま)している。現在に地続きの問いの群れだ。
「土人」といい、「滅びゆく民族」という。言葉の暴力がむき出しに転がっている。「滅びゆく民族」は哀愁に包まれ、同情を呼び、見せ物の舞台に引き出され、保護を必要とする人々となる。和人とその国家・日本こそが侵略と収奪の主体であったことは、巧みに隠ぺいされる。沖縄とは異なった、もうひとつの植民地の荒涼たる景観が横たわっている。
傷つき、足掻きながら、迷いと逡巡にみちた自問自答がくりかえされる。アイヌは遅れた、滅びゆく民族なのか。保護とは何か。奪い尽くすことと引き換えに与えられた保護、それが自立への道を閉ざしているのではないか。伝統文化、たとえばクマ祭りとは何か。野蛮の象徴なのか、守るべき文化なのか。無知ゆえにだまされ、奪われてきた過去である。先住民族としての歴史の回復から、民族的なアイデンティティーの新たな模索と確立へと向かう、若きアイヌの群れが、しだいに姿を現してくる。これはいわば、アイヌ民族が手探りに覚醒(かくせい)へと向かった記録である。
それにしても、くぎを刺すように、言論だけがその時代の歴史ではない、という「当たり前の想像力」を求める編者の姿勢には、共感を覚える。同化と抵抗という枠組みを脱して、「ふつうの歴史」としてのアイヌ史が、やがて登場してくる。心地よい予感だ。東北を仲立ちとして、そのアイヌ史が列島の民族=文化史につながれてゆく時代もまた、すぐそこまで来ている。そのとき、農本主義に立ったアイヌにたいする植民地支配の意味が、新たな視座から問われる。瑞穂(みずほ)の国によって「いくつもの日本」を覆い隠すことはできない。(東北芸術工科大教授)