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ディミトリーのこと
道化役といえば、サーカスの狂言まわし、場つなぎといったマイナーな役柄ですが、それを舞台芸にまで高めたのは、マルソーであり、ディミトリーさんでしょう。
ところでこの本『ぼくのユモファント』は、ディミトリーさんがはじめて子どもたちに向けて作った絵本です。
象の頭をもつユモファントは、太陽や月や星を友だちにもち、雷のファンファーレで登場する大した役者です。ふしぎな能力をもち、そのうえ愛嬌のある可愛いユモファントは、たぶんみなさんにも気にいられたのではないでしょうか。
ディミトリーさんは、一生懸命やれば、山をも動かせるし、ふしぎな象だって助けてくれるといっています。そういえばディミトリーさんの芸は、ごく身近かな日常性を材料にしながら、太陽、月、星、つまり宇宙が感じさせられます。(岩崎京子)
前書きなど
母と子 1996.7
母と子の本棚
世界的に有名なスイスのクラウン、つまり、サーカスでのピエロ役をする道化師がはじめて作った絵本。
淡い水彩だが、動きのある大胆な線に引きつけられ、思わずページを開いてしまう。色数も多く、サーカスの世界の楽しさに魅了される。
ぼく、ディミトリーは新しいショーのためにゾウを探しに行く。といっても捕まえて無理矢理連れていくのでなく、一緒に来るゾウを探している。そこに現れたのが半分ゾウで半分人間のユーモアくん。彼を「ユモファント」と命名、旅をしながら芸を身につけ、やがて舞台へ。
日本児童文学 1996.7
風はどこから吹くか 柴村紀代
「ぼくのユモファント」をなんの先入観もなしに見ても、この絵ののびやかさに魅かれるものがある。ユモファントとは、半分ゾウで半分人間で、命名はユーモアのユモとエレファントのファントから取ったものだという。サーカスでクラウンをしていたぼくは、ある日、新しいショーのためにゾウを探しに出かける。ジャングルで出会ったのは、お日さまや月や星たちと友だちのユモファント。ふたりは嵐の海を超え、旅の途中でふたりのショーを見せながらサーカスに戻ってくる。サーカスでのショーは大成功、ふたりはお客さんの拍手が花びらのように舞う舞台でうれしそうにあいさつした。
作者のディミトリーは、7歳のときクラウンになると決めて、以後シュタイナー学校や演劇学校で学び、やがて世界的に有名なクニー・サーカスに参加。75年にスイスでディミトリー劇場を作り、日本にも4回来日している。彼の絵ののびやかさは、そういうところから来ているのだと納得できる。
なぜ、ユモファントがゾウと人との混血なのか。そこに人間と動物との対等な交流を見ることもできるし、お日さまや月や星さえも友だちのユモファントとは、自然界のすべてをつなぐ存在として何か象徴的な位置にいそうな気もするが、そういう読み解きも実は不要なことなのかもしれない。この絵本にはそういうしかつめらしい解説を超えて、直接読者に働きかけてくる健やかな明るさがある。ヤンママたちが、ぷるぷるたまちゃんを愛すると同時に、このユモファントのよさがわかるようなら、彼女たちの感性も本物なのだがとつい年寄りじみた願望を持ってしまった。