目次
序 論
第一章 アイヌとアムール・サハリン地域の文化複合について
1 はじめに
2 アムール・サハリン地域の住民
3 トゥングース・満州語の分類
4 トゥングース・満州問題
5 アムール・サハリン地域の文化視合
6 アムール・サハリン地域の基層文化
第二章 アムール・サハリン地域の神話世界
——創世神話を中心として——
1 口承文芸のジャンルについて・
2 創世神話について
3 今後の課題
第一部 創世神話
第一章 射日神話
1 はじめに
2 東アジアの射日神話
3 アムール・サハリン地域の射日神話
4 トウングース・満州語系諸族の射日神話の構成
5 ニヴフの「二羽の四十雀」について
6 アムール・サハリン地域の文化複合についての手掛り
第二章 兄妹始祖神話
1 問題の所在 /
2 アムール・サハリン地域の伝承
3 アムール・サハリン地域の伝承の特質
4 北東シベリア地域の伝承
5 北東シベリア地域の伝承の特質
6 北方における兄妹始祖神話
付.ハダウをめぐって
——死の起源と最初のシャマンについての覚書——
第二部 虎、熊、シャチ——「主」の観念と世界観をめぐって
序 章
第一章 虎、熊、天神、狩猟神
1 虎をめぐる伝承
2 熊をめぐる伝承
3 天神、狩猟神、守護神についての伝承
第二章 シャチと水界の「主」
1 シャチと水界の「主」の観念および儀礼
2 シャチをめぐる伝承 ′
3 水界の「主」をめぐる伝承
第三章 双子崇拝と狩耕民の世界観
1 双子崇拝
2 アントロモルフィズムと変身
3 「主」の観念
第三部 アイヌの口承文芸——神謡kamui−yukarの考察
序章
第一章 巫謡とシャマンの歌
1 アイヌの「巫謡」について
2 近隣諸族における巫歌
3 アイヌの「巫謡」と巫歌、そして、神謡の起源について
4 結論
第二章 仮面仮装と狩猟儀礼をめぐって
はじめに
1 仮面と仮装
2 シベリアにおける仮面の分布
3 仮装と狩猟儀礼
4 動物の像を所持して行なう儀礼
5 問題の所在一結論に代えて
付.エヴェンキの狩猟儀礼における巫歌
第三章 アイヌの神議(1)動物説話の類型
はじめに
1 動物を叙述主体とする神謡の類型
2 動物世界と人間世界との関係をテーマとする神謡
3 動物説話の機能
4 結論
第四章 アイヌの神謡(2)神謡成立の可能性
はじめに
1 恋愛、求婚、婚姻をテーマとする神謡
2 人と動物の婚姻譚
3 神謡の類型についてのまとめ
結 論
前書きなど
本書はユーラシアの北方諸民族に対する民族学的な関心から出発し、特に、アイヌと周辺民族の文化の比較研究を志しながら、その方法論を模索したひとつの足跡である。アイヌおよびその文化に対する関心と研究には長い歴史があり、アイヌに向けられる社会的な関心は今日ますます大きくなりつつある。そして、アイヌの文化を周辺諸地域の文化と比較してその特徴を明らかにし、それを人類の文化史のなかに位置づけようとする試みは近年になって俄かに活気を帯びてきており、着実な進展をみせ始めていることは喜ばしいことである。しかしながら、解明すべき課題は少なくない。
たとえば、金田一京助はアイヌの英雄叙事詩ユーカラの採集と刊行に甚大な貢献をなし、ユーカラがイーリアス、オデュセイア、マハーパーラタなど世界の三大叙事詩にも比屑しうるアイヌの誇るべき遺産であると喧伝した。にもかかわらず、ユーカラは今なお世界文学のなかには然るべき位置を与えられてはいない。ユーカラにとどまらず、アイヌの口承文芸は多くのジャンルからなる豊かな伝承世界を呈示している。このような口承文芸を何らかの方法で比較研究の狙上にのぼせることは、取りもなおさず、アイヌとアイヌの文化を正当に評価し、その人類文化史での役割を明確にすることになるものと考えられる。本稿はそのような観点にたち、アイヌの口承文芸の比較研究のアプローチの方法を模索しながら、アイヌにもっとも近接したアムール・サハリン地域の諸民族の神話・伝承との比較を試み、今後の研究の展望を見い出そうとしたものである。(「まえがき」より)