目次
序——その抵抗の生涯
渡日と蹉跌の青春
民族主義作家の誕生
「光の中に」から「親方コプセ」まで
「太白山脈」から挫折へ
挫折感と模索の日々
脱出・帰国・死
金史良年譜
前書きなど
1984.4.27 社会新報
日帝下抵抗作家の全容描く
金史良は植民地統治時代の1940年、「光の中に」で芥川賞候補になった作家である。彼が朝鮮から日本へ渡ってきたのは1931年、17歳のとき。二度にわたる検挙・拘留生活を経験して、追われるように国へ帰ったのは1942年冬。その日本での短い創作期間に残した日本語の小説は「光の中に」のほかにもすぐれたものが多い。(理論社刊『金史良作品集』、河出書房新社刊『金史良全集』全4巻などに収録)。作品世界のみではなく生き方をふくめて、現在めざましく活躍する在日朝鮮人文学の先駆といえる。李恢成氏なども金史良の作品との青年期における出会いと影響を証言している。
金史良は朝鮮へ帰ってからも長編歴史小説「太白山脈」などを書いた。日本敗戦の年の春、中国へ脱出し、太行山中にあった抗日闘争の朝鮮人根拠地へおもむき、そこで解放の日をむかえる。解放後ただちに帰国したが、朝鮮戦争に人民軍の従軍作家として加わり、1950年の秋、36歳で「戦死」した。
「本書は資料と証言を丹念に駆使して、日帝下にあって抵抗の姿勢を貫いた作家の全容をたどった評伝である。抵抗作家としての金史良の生涯は平坦なものではなかった。「内鮮一体」の名のもとに日本による文化侵略が過酷な様相を呈した一時期、海軍見学団に加わり、「時局協力」の作品も書いた。著者は、そのときの金史良の迷いを内面のヒダに分け入るようにして読み取ろうとしている。」
この本を読みすすめてわたしは、苦悩と挫折を味いながらも民族的・文学的抵抗を貫いた一人の作家の生涯を知っただけでなく、その姿をとおして、日本帝国主義の統治権力のもとで生きた朝鮮民族と、その良心に出会った。
なお本書は10数年前に岩波新書として刊行された『金史良—その抵抗の生涯』のもとになるものだが、分量がそれの数倍に及ぶのみでなく、いっそう詳細・綿密な記述によって読者の関心に応えるものになっている。