目次
序 伊藤毅
第1部 時間―危機の都市史
危機と都市 伊藤毅
01 ローマの都市構造 都市発展要因としての洪水/クリスティアーノ・リッパ
02 平安京・京都と危機/髙橋康夫
03 ミラノと水 古代都市システムの危機/エンピオ・マラーラ
第2部 領域―危機と居住
04 貞観地震・津波に学ぶ 陸奥国はいかに復興を遂げたか/柳澤和明
05 都市社会と自然災害 中世および近代初期のトスカーナにおける河川氾濫/フランチェスコ・サルヴェストリーニ
06 氾濫原・湿地・砂洲上の集落 16~19世紀新潟の蒲原平野を中心に/松田法子
第3部 文化―共存と再生
07 ナポリ、永遠に再生しつづける都市/マッテオ・ベルフィオーレ
08 11世紀から19世紀における北イタリア平野の河川システムと都市・農村の生活/フェデリコ・スカローニ
09 誕生から19世紀までのパドヴァ水系における危機/ピエトロ・カゼッタ
10 アジアの水都 災害と信仰・身体性・統治/髙村雅彦
結語 伊藤毅
編集を終えて 伊藤毅、フェデリコ・スカローニ、松田法子
編著者、翻訳者略歴
前書きなど
本書は日本とイタリアにおける災害の歴史を比較都市史的観点から捉えることを目的として編まれた。日本とイタリアは地震国であり、過去さまざまな災害を被りながらも、現在まで豊かな都市文化を築いてきたという点で類似性が認められる一方で、石と木に象徴されるように都市生活が営まれる物的環境やその継承性には大きな隔たりがあった。
(略)
日本ではあまり進まなかった山岳地帯への居住は、むしろイタリアでは古くから積極的に展開し、トスカーナ地方に点在する歴史的な中世都市はまさにイタリアの都市の典型を示している。しかしこうした山岳都市は地震の恐怖とともに生きてきたという側面があり、2016年8月24日イタリア中部のアマトリーチェなどの美しい町々を襲ったイタリア中部地震は石造建物の崩壊とともに300人に及ぶ死者を出す近年稀にみる大災害となった。地震後の瓦礫の山の光景は凄絶であり、依然木造の多い日本とは異なる惨状を示していた。
本書はこうした自然災害を、従来のように外から人間居住を襲う不確定な災害とみるだけでなく、むしろ人間が自然とともに居住を構築していううえで不可分な要素として捉え直すことを試みている。(伊藤毅「序」より)