紹介
弟よ星が無限に落ちてきて僕らに父がいた夏がある
二晩の看病を終えゆうぐれの吉野家が宇宙ステーションに見ゆ
焼いてきた帰りに見えて美しき無人販売所の新キャベツ
弟が、僕が乳児になっていて父が思わずいないいなーい、
日の暮れへゆっくりおりる坂道がいつか最後の友だちになる
左目の上に小さな傷がある完全だって思ってたひと
濃紺の夜行は富士のあたりです「いま、銀河」って声が聞こえる
ひも状のものが剥けたりするでしょうバナナのあれも食べている祖母
内臓に光を注ぐ。僕たちはひたすら闇を壊しゆくのみ
日蝕の壊れた光浴びながらサラダにすこし酢をかけて食う
秋茜数限りなく飛ぶ夕べ奴隷のままで死んだ人たち
ソ連邦遠く聳えつテルミンの奏者が背なに引き寄せる神
「歩く」と「黙る」は近き言葉にて「時間」にも多分似ていると思う
一瞬に弾け生まれてほとばしる火をわかもののが盗みてゆけり
中辺路を突っ切ってゆく暗さかな時間どろぼう我に寄り添う
羊水のなかに身体を重ね合うリズムは二人おんなじだった
乾電池抜いた空虚に指を入れ一子とつながらないか待ってる
目次
ⅰ
末期の夢
コリアンダー畑
坂道
ファミリー
蝦の味
ⅱ
医学生
麦茶
ワシントン特別区
秋茜
テルミン
もののふ
ニューヨーク
六本の足
新宮
ネズミ
お燈まつり
熊野
悪意の人
一子 ichiko
あとがき