目次
はじめに
machiminの概要 −まちが1つの企業だとしたら?−
CHAPTER 1 流山市に移住。machiminをはじめるまで
ドラッカーと部活動 人材育成にハマる
ボランティアをきっかけに、流山市とつながる
市民団体WaCreation設立 時間との戦い
シビックプライド(市民の誇り)を賭けた挑戦と新たな出会い
「株式会社流山市」の人事部長、動きます
「みりんの魅力再発見プロジェクト」から、
流山駅の一角にある「一等地」を獲得するまで
machiminを、まちのみんなでつくる
CHAPTER 2 machiminという〝場〟は どのように育ったか
なぜ、流山市を株式会社にたとえるのか
「ヒト」を育てるための研修を行うメソッド
公共性と事業性の間にこだわる
公共性は他人の評価、少しずつ身についていく
machiminの理念を体現 廃材アップサイクルラボとは?
コラム 縁側の小噺 万能調味料・本みりんがmachiminのうまみ・コクになる
万能調味料・本みりんがmachiminのうまみ・コクになる
観光案内所横の菓子製造所の謎に迫る
菓子製造所@machimin オリジナルレシピ開発秘話
どのように人を集め、ブランディングしていったか?
プロジェクト最大の〝壁〟は、どんな人に声をかけるか
研修に参戦する主婦現る
大量受注からの「ひだまり」の青年たちへの作業発注
医師に看護師というパートナーがいるように 佐藤恵美さんという私のパートナーについて
CHAPTER 3 machiminには なぜ人が集まるのか
まちを学校にするために センセイを集め、育て、実践する
糸かけ数楽(すうがく)アートで、数学の神秘に気づく―あそびとくらすラボ
着物がワンピースに―廃材アップサイクルラボ ①
ラボそのものもアップサイクル―廃材アップサイクルラボ ②
藁フェスも開催する農業体験―こめとやさいとくらすラボ
流鉄ギャラリーを企画・運営 ここに集まる理由
「好きなこと、得意なこと、やりたいことがない」主婦の自己実現
クリスマスを目前に牧師と僧侶が対談する
「わかりあえない」を「わかりあう」ために 壁画プロジェクトが教えてくれたこと
CHAPTER 4 machiminをアップサイクルさせる仕掛けをつくる
プロジェクトを再定義「本みりん研究所」に
働き盛りの男性・子育て中の父親が地域にかかわる方法の模索
流山の名物「切り絵行灯」を鑑賞するだけでなく、参加する
長野県の飯綱町奈良本地区へ「移動machimin」の実施
CHAPTER 5 machiminが多拠点に進化・発展する
研修を終えるタイミング―ヒトの自立
人材育成におけるキーパーソン、橋本文(はしもとあや)さん
machiminの手綱をはなすとき
machiminを分解し、運営していくということ
人材配置は、アートのように
machiminを「自立する仕組み」にし、のれんわけしていきたい
CHAPTER 6 CROSSTALK 流山市長(本物)×「株式会社流山市」の人事部長(自称)
流山市民の潜在的な能力を最大限に活かすには?
「自分が住みたいまちをつくるために転入する」という発想
「withコロナ」が父親たちのまちの出番をつくるかもしれない
あとがき
前書きなど
皆さんは、まちのコミュニティスペースを利用することはありますか? またはコミュニティスペースを作りたいと思っていますか? そもそもコミュニティって何だろうと思ってこの本をめくっている方もいるかもしれませんね。
近年は、商店街にかわって大型のショッピングモールが地域社会の生活を支えるようになったうえに、通販サイトも充実し、コンビニでも無人レジが増えるなど、買い物をするだけなら以前ほど人と会話をする必要もなくなりました。少子化や核家族化で、交流する機会そのものも減っています。その結果、公園や公民館、商店、カフェなどの地域社会で人が集まる場所は、生活に必要な用事を済ませるために行くというよりも、誰かと会って話すための〝居場所〟、つながりを感じられる場所という役割を求められるようになりました。
たとえ、自習や仕事を終わらせるためにカフェを利用するとしても、ときには友人や家族、知人と集まるための場所にしていたり、店員さんとなにげないやりとりをすることが密かな楽しみ・息抜きになっているという人もいるのではないでしょうか。
以前なら、そうした場所を営利目的の企業や自治体にまかせて運営すれば足りていました。近年はNPOなどの団体が〝コミュニティスペース〟と解釈して、地域住民の生活の質の向上や観光客誘致のために非営利目的で立ち上げることが増えています。
machiminもまた、観光案内を1つの機能とするコミュニティスペースです。1916年の創立以来100年を超えて営業を続ける流鉄流山線の流山駅舎にある旧タクシー車庫(空きスペース)を改装して2018年4月、開業しました。それ以来、「まち(machi)をみんな(min)でつくる」という想いとともに週7日、つまり毎日10~16時に場をひらいてお客さんをお迎えし、他にも年間100を超える大小さまざまな企画やイベントを行ってきました。ただし、machiminには他のコミュニティスペースにはあまり見られない特徴がいくつもあります。
最も大きな特徴は、世代や性別、職業や学生などの所属、居住歴などを問わず多様な人が集まっていることでしょう。普段は都内で働く父親が育休の時間で地域に興味を持ってくれたり、専業主婦の母親が子どもが幼稚園に行っている時間だけ来てくれたり、小学生が手伝ってくれたりすることもありましたし、定年退職後の方が自身の活動をしながらコラボレーションを進めてくださることもありました。店頭やイベント時に現地に来るだけではなく、それぞれの自宅などで、サイトを立ち上げる、商品試作をする、事業戦略を考える、企画の運営準備をする、調べ物をする、記事を書く、農地の世話をする、などなど多様な方法でmachiminに参加くださっています。店頭では、流山の本みりんを活用してmachiminのキッチンでオリジナル洋菓子を開発・販売している「本みりん研究所」の他に、手作りの缶バッジの製作・販売、近隣に在住の切り絵作家さんの作品の展示・販売なども行っています。
日本の社会には、まだまだ「経済活動に従事している人の方がえらい」という価値観や風潮が根付いています。そうした中で、子どもや退職したシニア、専業主婦、障がいがある人、社会とつながりを持ちにくい人などが挑戦しがいのある活動に継続して携わるには、非営利目的でも事業性を持たせて金銭を獲得できる仕組みにこだわる必要を感じるのです。仕事を与えられなくとも、仕事は作れます。作ればいいのです。
自分の〝好き〟や〝得意〟を軸に強みが換金されていくはずだ、世の中にある流れは変えられるのではないかという仮説を検証したいと思いました。コミュニティスペースだけどmachiminが〝居場所〟ではないというのは、成長した「ヒト」がmachiminからいつか卒業することが、machiminという仕組みの中にあらかじめ組み込まれているからです。出口を用意するのです。
金銭を得た経験が市場経済のなかでも交換価値を持つことで、個人の〝好き〟や〝得意〟を発展させるきっかけとなったmachiminという〝場〟に依存しなくても、独立・自立した個人となり、まちに輩出され、まだ見ぬ誰かのロールモデルになって、まちに多様性が保たれていくこと、そしてまちがよくなっていくことを目指しています。私がmachiminを開業するよりもずっと前、まちの中を老若男女が静かに行き交う姿を見て「もしも流山市が1つの企業だったら?」「人事部長という存在がいたらどうなる?」と想定して1人カフェの席について黙々と筆を走らせたことから全てが動き出しました。
本書を執筆する間にも世の中は大きな変化を始め、コミュニティスペースを基盤にするmachiminが、オンラインでできること、オンラインでは代えられないこと、オンラインでできるけどやっぱりオフラインのほうが断然良いことなどをひしひしと感じ、コミュニティスペースの可能性について考えることができました。自分の暮らすまち、暮らしたいまちであなたが何をするか。ひらめきやきっかけを生み出して「私にもできるかもしれない」と行動に移す一助になれれば幸いです。
まちをみんなでつくる。
あなたに会いたいです。