目次
第1章 経済の波動に翻弄される若者たち
1高成長下の若者たち 2社縁社会からはみ出す若者たち
3新たな縁と絆への願望
第2章 人間の居場所としての故郷
1故郷喪失の時代 2新たな居場所(故郷)の創造
第3章 社縁社会への道程
1社縁社会への道程 2社縁社会の発展と農村との関係
3故郷を足掛かりに成長した社縁社会
第4章 心の故郷の喪失
1高度成長下の農業・農村の変化 2故郷であることをあきらめ、やめる農村
第5章 魂の故郷の喪失
1宗教と寺社の衰退 2孤立化する生と死
第6章 移動社会と多様・多極化する居場所
1加速する移動社会 2世界から日本へ、日本から世界へ
3移動社会の光と影
第7章 情報縁社会の居場所
1情報社会の深化と危惧 2AI社会をめぐる議論の現状
3人間の自然性、自律性 4労働と生活の本質的転換
第8章 浮かびあがる田園生活への思い
1私の田園“半”回帰 2多様な田園回帰の人々
第9章 高まる田園回帰の流れ
1都市民の田園回帰への願望と背景 2変容する農村社会
第10章 複合縁社会の形成へ
1「縁」の重層化・複合化 2再生を目指す農村社会
3田園回帰受け入れ成否の要件 4「着土」の文化・文明へ
前書きなど
農村では、若者が去り続け、高齢者ばかりが目立ち、空き家が増え、寺や神社が崩れ落ちている村が散見される。(略)
都市では、高層マンションがそびえ、数百の世帯が住む。互いに声をかけあうことも少なく、共稼ぎが多く、皆忙しく会社に出かけ、夜は寝るためにだけ帰ってくる人も多い。子供たちはしばしば置き去りにされ、「孤食」(一人食)や「かぎっ子」の日々を送る。(略)離婚率も高まり、金銭だけでなく暮らしの貧困な家庭や児童が増えている。六〜七人に一人は食事もままならない子供たちがいるという。
この豊かな時代に若者に仕事がなく、多くの子供がまともな食事や暮らしができないなど、何ということであろうか。亡国の兆しというほかはない。(略)
私は自身のささやかな体験を生かしながら、目を研ぎ澄まし、都市と農村、農業と工業のはざまから、私なりに現代社会のありようと、今後の社会や私たちの居場所について、やや広角度の視点から考察してみたいと思う。