目次
はじめに
第1章 反日感情
北京首都国際空港にて/中国人が心配する中国人の反日
「反日」は感情である/「反日デモ」は感情表現である
二人の証言/日本製品不買運動
メディアが報じない「反日デモ反対デモ」/私の二〇一二年九月一八日
「反日感情」を乗り越え「反ファシズム」へ
第2章 反日教育
「反日教育」は存在しない/侵略された側の近現代史教科書
日清戦争の記述──中国の教科書 旅順大虐殺
日清戦争の記述──日本の教科書
抗日戦争の記述──中国の教科書
九・一八事変(満州事変)/盧溝橋事件/南京大虐殺
犠牲者数の食い違いをどう考えるか/事実記録と感情記憶のすれ違い
抗日戦争の勝利/日中戦争──日本の教科書
どちらが対話しているのか?
第3章 反日世代
反日ドラマというジャンル/視聴率がとれるから抗日ドラマが増える
《四十九日・祭》の撮影現場にて/撮影現場の日中友好
世代による大きな違い/反日という名の愛国心
祖父母の実体験/歴史認識の基礎
世代間で真に伝えるべきものは何か
第4章 反日メディア
体制側によるコントロール/ネットメディアの規制
小さなママ友サイトのコメントも監視/テレビ報道の規制/南周事件
日中メディアの報道比較/公的メディアが機関メディア
反日メディアは存在するか?/言語と客観
メディアを精査せずに選択している/鵜吞みにしない姿勢の大切さ
どちらがより懐疑的か?/メディアの品格と国民の姿勢
おわりに
前書きなど
はじめに
中国に住んで一〇年が経った。
最初に住んだのは一九九八年。中国語を学ぶために、湖北(フーペイ)省の武漢(ウーハン)大学に一年間留学した。その後、二〇〇四年から現在に至るまで、中国で働いている。その間、蘇州(スーチョウ)、上海、珠海(ジュハイ)、深圳(シェン チェン)など複数の都市に居住した。留学したのは、香港返還の直後とマカオ返還の直前である。圧倒的なスピードで世界第二位の経済大国となりゆく二一世紀の初頭期を中国で生活したわけだ。
この間、何回となく起こった日本と中国の間の緊張状態を中国現地で経験し、そのたびに同じことを感じた。それは、なぜ、ここまで日中間で諸問題に対する認識や国民感情がすれ違うのかということである。
そして二〇一二年。いわゆる尖閣諸島問題(中国語では钓鱼岛(ディアオユイダオ)问题)をきっかけに、日中関係は近年に例を見ないほどの緊迫状態となる。そこで、日中双方を知る者として、双方の言語を理解できる者として、日中間に横たわる障壁について取材し、その真相に迫りたいと思った。その障壁こそ、本書のテーマである「反日」だ。
「反日」だから、当然、中国側からの目線である。しかし、現代中国人の目線からだけ見た「反日」ではなく、日本によって「侵略された側」の目線を意識した。なぜなら、現代日本は「侵略した側」としての意識が極端に欠如しているからである。
日中関係は確実に新たな時代に突入している。竹のカーテン、文化大革命、改革開放、天安門事件、鄧小平(ダンシャオピン)の逝去などを経て、中国経済はバブル期を迎え、IT革命という世界的潮流の後押しを受けて、世界第二位の経済大国になった。さらに、二〇〇八年に北京オリンピック、二〇一〇年には上海万博が開催され、中国国民の意識も確実に変わっている。そうしたなかで、いったいどれだけの日本人が正確に「現在の中国」を把握できているだろうか。どれだけの日本人が「過去の日本」を正確に認識しているだろうか。
今回、多くの中国人に「反日」について取材した。あわせて、中国人の日本観に大きく影響している教育、世代、メディアについても取材と検証を行った。質問に答えてくれた中国の友人たちの話は、どれもが示唆に富んでいる。そして、深く考えさせられた。それらは個性にあふれていると同時に、根底では共通している。よくも悪くも、現代中国人の日本に対する認識や感情には共通点がある。それを紐解くことで、教育、世代、メディアという巨視的な視点から、市井のミクロの目線まで、深く理解できると確信している。