目次
日本料理 川波 奈良市
茶懐石 昇月 長野県安曇野市
野趣料理 諏訪野 さいたま市
レストランロマラン 山梨県富士河口湖町
アルブルヴェール 山梨県大月市
フルール・ドゥ・ソレイユ 山形県高畠町
西洋料理レストラン土手 岡山県井原市
ヴィラ・アイーダ 和歌山県岩出市
オステリア ジョイア 神奈川県鎌倉市
Garden Cafeぶ楽り 千葉県市川市
プラシャンティ 広島県府中市
一徹らーめん 兵庫県姫路市
前書きなど
自家菜園産だからといって、必ずしもうまい野菜だとは限らない。餅は餅屋。専業農家が作った野菜のほうが、はるかにおいしいかもしれない。
だが、暑い日も寒い日も雨の日も風の日も、手作りの肥料で、わが子のように手塩にかけて育てた野菜をどう料理するとより昇華させられるのか。それをいちばん理解しているのは、生産者でもある料理人であることは間違いない。種や苗のときから育てているからこそ、その野菜の旬をよく知っている。しかも、使いたい大きさのときに収穫できるのも自家菜園のあるレストランの強みだ。
とはいえ、客商売が本業の人が、“兼業農家”になるのは至難の技に違いない。なぜなら、昼も営業しているレストランの場合、午前中に仕込みをしなければならず、それには朝いちばんで野菜を収穫する必要があるからだ。それと平行して、数カ月後、半年後に収穫する野菜のために畝を作り、種を播き、苗を植えなければならない。無農薬栽培の場合、害虫を退治するという大切な仕事もある。
飯田博之さん(オステリアジョイアのオーナーソムリエ)と初めて会ったのは、彼がまだリストランテの雇われ支配人兼ソムリエだったときのことだ。飯田さんはいまと同じ畑で、いまと同じように地下足袋姿で、朝早くからひとりで野菜の世話をし、収穫した野菜を店に運んでいた。
「従業員が大勢いるのに、なぜ畑仕事を手伝わせないのか」と飯田さんに尋ねた。
「従業員にやらせたら、疲れて仕事になりません。自分の身体をいじめているつもりはありません。畑仕事が愉しくてしかたがないんです」
そう言って、飯田さんは目を細めた。
飯田さんに限らず、本書に登場する人たちは、嬉々として農作業に取り組んでいた。誰がどこでどのように栽培し、いつ収穫したのか履歴がわからない野菜ではなく、汗水たらして自分で育て、今朝畑から採ってきたばかりの野菜なら、自信をもって客に食べてもらえる。無農薬栽培の場合、より安心で安全な料理を提供できるという自負も加わる。
電話一本で野菜を注文できるのに、なぜ野菜を育てるのか。料理を作る大切な手を、土まみれにしてまでなぜ鍬を握るのか。楽をしようと思えばいくらでもできる。でも、なぜしないのか。
農夫(農婦)として、料理人としての矜持が、自家菜園のあるレストランを続ける原動力になっているのである。
そんな彼らが育てた野菜で作った料理がうまくないはずがない、と思う。